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穢れた僕と4
顔を上げると、コウがいた。目の前に、コウがいる。
安心して頬が緩む。
コウもコウでどこか安堵したような顔つきだ。
考えたことは同じなのかもしれない。
「こんばんは、亜樹」
「こんばんは、コウ」
お互い照れたように笑い合う。それからコウは僕の隣に腰掛けた。
「よかった。ちゃんと会えるか少し不安だったから」
「……僕も、同じこと、考えてた……」
どうして同じ気持ちを持っていたと知るだけで、こんなに嬉しいんだろう。胸のあたりがぽわっと温かくなって、自然と笑みが零れる感じ。
窓枠に体をもたれながら、目を閉じる。
「亜樹、どうしたの? もしかしてめまい酷い?」
「……え?」
幸せに浸っていた僕に、心配そうな声がかかる。
こうも簡単にわかるほど、調子が悪そうに見えただろうか。それともコウがそういうのに敏感なのか。
きっと後者だと思う。
せっかく心配してくれたけど、ここは誤魔化した方がいい。面倒な人間だと思われたくない。
こんな毎日調子の悪い人間なんて煩わしいに決まってる。
かぶりを振ろうとした僕の視線と、コウのそれが絡まった。
「……う、うん……」
気づけばそう動く口。
誤魔化しは効かないとその鋭い視線が語っていた。
どこまでも優しい人だ。
「窓枠じゃ硬いでしょ? 俺の肩にもたれていいよ」
「や……え、でも……」
「ほら」
コウの手が優しく僕の肩に回る。そのまま僕に負担をかけないよう、ゆっくり頭の位置を変える。
男らしい体つきで頼もしいのに、窓枠なんかより全然柔らかくて、温かい。
なんだか、目が潤む。
これは嬉しさからくるものじゃない。
確かに嬉しくはあるけれど、それ以上に恐れがあった。
もしコウがあれを知ったら。
僕は穢い。穢れている。
知られたらきっと幻滅する。もう会ってもらえない。それどころか、軽蔑される。
とりとめもない話をしながらも、僕の心は朧げな不安に包まれ始めた。
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