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穢れた僕と7
「……はい」
声の震えを必死に抑える。
僕の返答に彼は満足そうに笑い、それから僕を呼んだクラスメイトに向き直る。
「君、呼んでくれてありがとう」
「あっ、いいえ!」
妖艶にも見える表情でお礼を言われたクラスメイトは頬を染めた。それから入り口付近の自分の席へ戻っていく。
「さあ、亜樹、行こうか」
顔を縦に振って、先を歩き始めた彼について歩く。
「どうして昨日、僕から逃げた」
何か言い訳を、と思うけど、喉が強張って声が出ない。そもそも言い訳なんてこの人相手には意味ない。
「用事などない。 もちろん僕に気づかれることもわかっていた。それでも逃げ出した」
声音はいつも通りだが、一度もこちらを見ない彼。それが怖くて仕方ない。
どうして僕はこの人に目をつけられてしまったのだろう。どうして逃げられないのだろう。
絶望と恐怖が僕を蝕んでいく。足首からじわじわと体を這い上がり、締め付けてくる。
「そんなに僕を恐れるとは、心外だな」
彼の足が止まる。
目の前には生徒会室という札が掲げられている部屋。彼がポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
「ああ、そうか。恐れだけではない。これからされることを、望んでいるのか」
カチャと音が鳴って、彼が扉を開ける。
振り向いて、僕が入れるように体をずらす。
その顔にはそれは妖艶な笑みが浮かんでいた。
顔が美しいこの人だから、誰もが見惚れるような笑顔だ。
「亜樹はそういうことが大好きな、淫乱だから」
屈辱。恐怖。羞恥。嫌悪。恐怖。絶望。
どんな感情が浮かぼうと、僕には従うという選択肢しかない。
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