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穢れた僕と8

生徒会室に入ると、背後で鍵の閉まる音がした。 僕の視界には豪奢な部屋が映っている。長テーブルと、その両側に高価そうな数人掛けのソファ。一番奥には入り口の方を向いて、一人掛けのテーブルとソファが置いてある。生徒会長の席だ。 ああ、始まる。 もう見慣れてしまったこの部屋を見るたびに、絶望とも、諦めともつかぬ感情が浮かんでくる。 「服を全て脱いで机に座れ」 背後からの声に体が強張る。 こう言われるのはかなり機嫌が悪い時だ。 機嫌がよければ、下を脱ぐだけでよかったり、ソファで許されることもある。 嫌だ、本当は、こんなこと、やりたくないのに。 僕が固まっている間に、彼は生徒会長用のソファに座った。 絡めた指に顎を乗せ、スッと僕に視線を向ける。 「母親がどうなってもいいのか?」 反射的に首を振る。 ならやることはわかるはずだ、とでも言うような視線から目をそらし、服に手をかけた。 男同士なのだからそんなに抵抗を感じる必要はないとわかっている。だけど目的が目的だから不快感はあるし、自分一人だけが全裸など、やはり恥ずかしさがある。 それでも従うしかない。母さんを守るためには、こうするしか。 彼が跡取りである九条グループは、母さんの会社の親会社だ。父親に頼めば母さんの会社を潰すことや母さんを解雇することは造作もないという。 何ヶ月か前に初めて接触してきた時もこの話を持ち出され、抵抗という選択肢は消え去った。 それからは彼の気が向いた時に、何度も、何度も。 彼の影を日々恐れ、怯える。目の前が真っ暗になり、終わらない地獄に飲み込まれたようだった。毎日が辛くて仕方ない。 震える指で服を脱いでいく。ぱさぱさと小さな音が部屋に落ちる。最後に下着から足を抜いて、落とした。 穢い僕の始まり。

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