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穢れた僕と14
ピピピッと枕元でなる電子音。
目を閉じたまま目覚まし時計を止めて、あともう少しと、近くの温かいものに抱きつく。
…………近くの温かいもの……?
目を開けると視界に入るのは、部屋でも布団でもない。誰かの洋服。
恐る恐る顔をあげれば、コウの端正な顔が視界を埋める。思えば太陽の光のもとでその顔を見るのは初めてだ。はっきり視認すればますます整った顔。
コウと認識した途端、バクバクと心臓が鳴り始め、頬はカッと熱くなる。
慌てて顔を元に戻す。
どうしてコウがここにいるんだろう。
だって昨日僕はめまいが酷くて…………
そうか、そしたら、コウが来たのだ。抱き起こして、心配してくれて、頭を撫でる手が心地よくて。
そこまでは覚えている。
ということは意味するのはひとつだ。
僕はコウと一緒に寝た。
僕はコウを帰らせなかった。
羞恥と罪悪感が入り混じりつつ胸に沸き起こる。
「ん……亜樹、起きたの?」
「……あ、う、うん」
するとやっと起きたコウが目を擦って僕を見る。無防備な姿に、柔らかい笑顔。唇がぷるぷる震える。
「もう大丈夫?」
「あっ、と……平気だよ」
「よかった、じゃあもう少し寝ようよ」
「え、あ、うん。……じゃなくて!」
「ん?」
起き上がって居住まいを正す。不思議そうに僕を見るコウに頭を下げる。
「あの、ご、ごめんなさい! 僕のせいで、帰れなくて……」
「あー全然。平気だよ」
コウも僕に倣って起き上がり、優しく笑う。
「でも、あの、家族の方とか……」
「そういうの気にしないから」
「でも……」
「俺が好きでやったことだから気にしないで」
好きでやったことだとしても、優しいからコウは帰りたくとも帰れなかっただろう。帰ってしなきゃいけないこともあったかもしれないのに、僕はコウを帰らせず。
それにあのまま僕が寝てしまったということは、布団まで運ばせたということだ。
おまけに粗末な布団に男二人なんて窮屈だったろう。そもそも男と寝るなんて嫌だったに違いない。
考えれば考えるほど、迷惑しかかけていない。
コウは内心、呆れているだろうか。それとも嫌気がさしてしまったかな。
「ねえ、亜樹。俺、お腹空いたな」
「あ……えっと、じゃあ……何か、作るね」
また気を遣わせてしまった。
でもここでまた僕がうじうじしても、更にコウに気を遣わせるだけだ。ならここはコウの言葉を素直に受け取って、それから美味しい朝食を作ろう。
心の中で決意して僕は部屋を出た。
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