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穢れた僕と16

しばらく黙って食べていたが、如何せん目の前に人がいるのは慣れない。誰かと食事をするのはいつぶりだろう。軽く悩み始めるくらいには久々だ。 ソッと視線を上げてコウを盗み見る。しかし視線はばっちりと絡んでしまった。 「うん。顔色、悪くないね」 何か言わなければ、と焦る僕より先にコウがそう言った。そしてまた目を細めて笑いかけてくれる。 「あ……うん。あ、朝は、平気……」 綺麗な笑顔にトクトクと鼓動が早まり、思わず顔を下げる。それが会話の終わりと見たのか、コウも視線を食事に戻す。 それからは黙々と朝食を食べた。 「ごちそうさま」 丁寧に手を合わせたコウが立ち上がり、僕の食器もろとも流しに運ぼうとする。 「……え、あの……僕、やるから……」 「いいよ。作ってくれたからこれはお礼」 「でも、コウは客人、だし……」 「んー、じゃあ俺が洗ってる間に身支度整えてきて。そしたら時間のロスが少ないしね」 開いた方の手でコウは僕の背中を押し、自室まで促す。 出会って日はそんなに経っていないが、何を言っても上手く言いくるめられてしまうことはなんとなくわかる。 そう思って大人しく従った。 自室に入って、乱れた布団を畳み、制服に着替え、髪を整える。リュックに教材を入れているところでドアがノックされた。 「亜樹、入るよ。着替え終わった?」 「うん」 女の子ではないのだから、そんな気を遣わなくてもいいのに。やっぱりコウは気遣い屋さんなんだろう。 「あっ、もう終わる? なら一緒に出ようよ」 「……あ、わかった」 返答を聞いてコウは窓のところへ行く。 僕も僕でリュックの準備を再開し、終えたら背負った。振り返るとコウは靴を持って待っている。お互い準備は大丈夫なよう。 そう確認してから自室を出る。 「窓以外から出入りするの初めてだね」 「そう、だね……」 「次からは玄関から入った方がいい?」 「……う、ううん。……んと、窓、が、いい……」 「そっか。わかった」 ポンポンと僕の頭を撫でてから、コウが先に家を出る。僕も続いて家を出て、鍵を閉めた。 「あ、そうだ。亜樹」 「……?」 「これ」 手を取られ、紙を渡される。その紙には数字や英字の羅列。 「え……これ……って……」 「俺の連絡先。もし昨日みたいに辛かったり、他にも何かあったら連絡して」 「……ぁ、えと、うん。あり、がとう……」 「うん。じゃあ俺行くね。また」 「ば、ばいばい……」 僕に笑いかけて、コウは颯爽と歩き去る。その背を見送ってから、手の中に視線を落とした。 「……ふふっ」 あまりにも嬉しくて自然と笑い声が漏れた。紙を大事に握って、僕はしばらく幸せに浸っていた。

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