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静かな波立ち3

息苦しさで目が覚める。 目を開けて入ってきた光景に既視感を覚えた。 そう、服。服が視界を埋めている。 体の感覚にも意識を向けてみると、コウの両手が僕の腰と背にきつく巻きついているのがわかった。足も絡み合っていて全く身動きが取れない。 つまり僕は、コウに抱きしめられている。 認識した途端、ぼっと顔が熱くなる。 恥ずかしくて腕から逃げ出そうとしたがそれは叶わない。 さすれば僕は地蔵のように固まることしかできない。 このところ、いや、コウと出会ってからかもしれない、僕はなんだか、おかしい。 コウといると心が落ち着くのに、笑みを向けられると胸のあたりがきゅうっと締め付けられる感じがする。頭を撫でられるとそこが熱を持つようだし、今のように距離が近いと鼓動が早まる。 人と関わることのなかった僕が初めて抱く感情。未知の感覚は少し怖くて、でも捨ててしまいたいとは思わない。不思議なもの。 きっとこれの正体がわかれば、少しは恐怖が減るのだろう。 だけど僕はこの感情を真正面から見ることなく、目を逸らす。そもそも僕にはその資格はない。 穢い僕に、そんな資格は。 ーーピピピッ 僕の思考を切り裂いたのは甲高い電子音。咄嗟に手を伸ばそうとする。 だがしっこり抱きしめられているから当然不可能だ。 「コウ、コウ、起きてっ」 煩い音を鳴らし続ければ母さんに迷惑がかかってしまう。ただでさえ睡眠時間が短いのに、それを妨害するなんて。 腕の中で懸命にコウを揺らすと、眉間にしわが寄る。 「んぅ……亜樹……?」 コウの体の力が緩んだ隙に目覚まし時計を止めた。耳につく音が止んで部屋に広がる静けさ。 「おはよう、亜樹」 ほっと安心しているとコウの声が頭上から降ってくる。顔を上げると眠そうな瞳が細められていた。 その笑顔に仄かな幸せが呼び起こされる。 「おはよう」 自身の内側に目を向けないで、僕はただ表面の安楽を掴んでいた。

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