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静かな波立ち5

目を開ける。 例に漏れず今日も夜中に起きてしまった。コウは来ないのだから寝ればいいものを。 妙に目が冴えてしまって一向に寝られる気配がしない。だが幸い今日のめまいは非回転性だ。 てっきり強い不安やストレスに犯されると酷くなるとばかり思っていた。僕の場合、彼関連のことだけなのかもしれない。もしくは今の状況が長く続かないとわかっているからか、今日だけの偶然か。 何はともあれ動くのに差し支えがなくていいだろう。 僕は立ち上がって窓まで行った。鍵を開けて、夜の空気を部屋へ送り込む。そしていつものようにそこへ腰かけた。 隣には誰もいない。久しぶりの一人の夜。 空を見上げると、コウと初めて会った日のように夜空が広がっていた。星が瞬き、月が光る。その輝きを背に、コウは立っていた。 けれどあの日と違って月は満月じゃない。大きく欠けた三日月。しかもそれを雲が時々覆い隠す。 冷えた空気を身に纏い、僕は夜空を見上げ続ける。 何分経ったか、何を考えていたかはわからないが、突然、頬に雫が伝う。 「……?」 それを逆に辿っていくと目に到達した。 ぽろぽろと涙が零れている。 どうして、だろう。この涙は、なんだろう。 今の僕への哀しさだろうか。先の未来に代わって流れてくれているのだろうか。 判断はつかない。ただ、零れていく。 その日僕は眠気に負けるまで、嗚咽もなく、静かに涙し続けた。

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