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静かな波立ち8
僕は今、ドキドキしながらコウを待っている。昨日とは違った意味のドキドキだ。
昨日のあれは何だったのだろう。コウはどんな思いだったのだろう。でも少なくとも僕に負の感情は抱いていないってことだ。
そう思うと嬉しい。理由は考えないけれど、嬉しいと思うくらい許されるかな。
一人で考えていると、地面が音を立てる。視界に靴が映る。
「昨日ぶりだね、亜樹。こんばんは」
「こんばんは。コウ」
次は何て言うのか。どう出るだろう。昨日はごめんってまた謝るのかな。それともその理由でも説明するのか。
「最近、どんどん暖かくなってきたよね」
「え? あ、うん、そうだね」
しかし放たれた言葉は予想を裏切るものだった。
コウはいつも通り僕の隣に腰掛ける。
そしてそういえば今日駅前でね……なんて普通に会話を始めてしまった。
……どういうことだろう。まさか昨日のはただの勘違い、ということ?
いや、あんなに焦っていたくらいだからそれはないだろう。それなのに当たり前のようにごく自然な会話をする。
そうだとすると、なかったことにしようとしている、ということで。
ちくんと胸の辺りが痛む。
僕はそれを必死に無視しようとした。
「亜樹、どうしたの? 調子悪い?」
「あ……へ、平気だよ」
深刻さが顔に出ていたのだろうか。いや、やっぱりこれもコウだからなのだろう。
「そうだ。今日めまいは平気?」
「うん。最近は調子いいよ」
「そっか。それなら俺も安心」
綺麗な笑みを向けられると余計に胸が痛む。
無視しよう、気づかないふりをしよう。
いくらそう思っても、膨らんでいく想いは止まらない。
嫌だ、嫌だ。
僕にそんな資格はない。そんなこと、わかっているのに。
コウの態度にショックを受けて。そんな自分が嫌で仕方なくて。
四方を壁に囲まれた僕は、立ち尽くすことしかできないーー
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