45 / 961

静かな波立ち8

僕は今、ドキドキしながらコウを待っている。昨日とは違った意味のドキドキだ。 昨日のあれは何だったのだろう。コウはどんな思いだったのだろう。でも少なくとも僕に負の感情は抱いていないってことだ。 そう思うと嬉しい。理由は考えないけれど、嬉しいと思うくらい許されるかな。 一人で考えていると、地面が音を立てる。視界に靴が映る。 「昨日ぶりだね、亜樹。こんばんは」 「こんばんは。コウ」 次は何て言うのか。どう出るだろう。昨日はごめんってまた謝るのかな。それともその理由でも説明するのか。 「最近、どんどん暖かくなってきたよね」 「え? あ、うん、そうだね」 しかし放たれた言葉は予想を裏切るものだった。 コウはいつも通り僕の隣に腰掛ける。 そしてそういえば今日駅前でね……なんて普通に会話を始めてしまった。 ……どういうことだろう。まさか昨日のはただの勘違い、ということ? いや、あんなに焦っていたくらいだからそれはないだろう。それなのに当たり前のようにごく自然な会話をする。 そうだとすると、なかったことにしようとしている、ということで。 ちくんと胸の辺りが痛む。 僕はそれを必死に無視しようとした。 「亜樹、どうしたの? 調子悪い?」 「あ……へ、平気だよ」 深刻さが顔に出ていたのだろうか。いや、やっぱりこれもコウだからなのだろう。 「そうだ。今日めまいは平気?」 「うん。最近は調子いいよ」 「そっか。それなら俺も安心」 綺麗な笑みを向けられると余計に胸が痛む。 無視しよう、気づかないふりをしよう。 いくらそう思っても、膨らんでいく想いは止まらない。 嫌だ、嫌だ。 僕にそんな資格はない。そんなこと、わかっているのに。 コウの態度にショックを受けて。そんな自分が嫌で仕方なくて。 四方を壁に囲まれた僕は、立ち尽くすことしかできないーー

ともだちにシェアしよう!