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激動1

挨拶の声がちらほら聞こえる教室内。僕は手のひらの中のリスを見つめていた。 もったいなくて袋から出していないが、どうしても連れて来たくて、そのままの状態で持ってきた。 リスのつぶらな瞳を見つめながら考えるのはコウのこと。 コウと会うのは楽しい。だけどあの日から、もやもやする。いや、少し違うかもしれない。楽しいのに、同時に自分を偽るのが、苦しい。 自分につけた目隠しを外せたら。思いきってやってしまえばきっと楽になる。 だけどそうすれば気持ちは留まることなく膨らんでいく。そしていずれ本当の僕をコウに知られてしまう。 だから自分の気持ちは無視するしかできない。それが、苦しい。 どうにもならないこの状況に、深く深くため息を吐く。 その拍子に、隣に人影があるのに気づく。僕の隣の席の人は来ないのに、そこに立っている。 どうしてだろうと顔を上げた。 「……ぇ……」 驚きで、言葉が続かない。 信じられない気持ちと、信じたくない気持ち。 綺麗な茶髪に、榛色の瞳。スッと通った鼻筋に、すらっとした体つき。 目の前には、コウが、立っていて。僕の高校の、制服を、着ていて。 驚いたのはお互い同じで、目を丸くしてしばし見つめ合う。 「……どうし、て……」 先に沈黙を破ったのは僕。やっと絞り出せた声に、コウが体を反応させる。まるで金縛りから解放されたようだった。 そして僕の言葉に返すことなく、身を翻して走り去る。 「……待って!」 思わず僕は大声を上げて追いかけていた。

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