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崩壊と萌芽4

「……コウ……いや、間宮颯太、だよ」 その言葉を聞いて僕の臆病さが目を覚ます。 今ならまだ引き返せる。コウの口から直接真実を聞かなくて済む。 「……知りません。僕は間宮颯太なんて人、知りません。僕が知ってるのは、コウだけ」 「亜樹……お願い、話を聞いて」 コウの悲痛そうな声に怒りにも似た感情が浮き出た。 泣きたいのは僕の方だ。 「今さら来て、何を話すの。僕は、ずっと……」 「……っ、ごめん。それには謝ることしかできない。俺に意気地がないせいで、ずっと来れなくてごめん。でも、話がしたいんだ」 唇を噛んで窓に背を向ける。 コウは今、どんな表情で、どんな思いで、この言葉を言っているのだろう。 惑わされる。 カーテンの向こうでほくそ笑んでいるかもしれないのに、騙されそうになるんだ。 「何も、聞きたくない。僕で、遊んでた人の言葉なんて……」 「遊び……? 違う! 俺は亜樹のこと遊びだなんて思ってない! だって俺は亜樹のことっ……」 「やめて!」 耳を塞いで固く目を瞑る。 聞きたくない。何も聞きたくない。 嘘か本当かなんて判別できないから。また騙されてしまうかもしれないから。 会いたいのに、会いたくない。 話したいのに、言葉を聞きたくない。 矛盾した気持ちが僕の中でせめぎ合う。ぶつかって、跳ね返って、爆発して。 苦しい。このままではどうにかなってしまう。今度こそ壊れてしまう。 コウから、離れたい。 「亜樹……」 「もういや! もうっ……!!」 "帰って" 「…………一人はいや……」

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