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崩壊と萌芽5
目を見開く。
僕は今、なんて言った?
僕の奥の奥、そんなところから這い出た、言葉。
無意識のうちに囁いてしまった。なんてことを言ってしまったんだろう。こんなの本心なんかじゃ、ない。
焦りと困惑が脳を埋める。
その刹那、
窓の開く音。肩を引かれる感覚。反転する体。僕を包む温かい何か。
「亜樹、亜樹……。ごめんね」
耳元で聞こえるコウの声に、抱きしめられているのだと気づく。
それもとてもきつく。
細くとも逞しい体に包まれて、自然と涙が零れた。
彼に無理やりされた時も、コウが来なかった期間も、枯れたように涙はでなかったのに。
「コ、ウ……」
「寂しい思いさせてごめんね」
温かくて、温かくて、心がほろほろと溶けていくみたい。
そうか、僕はずっと寂しかったんだ。
一人の家が本当は嫌で、一人ぼっちの教室も嫌で、だけど誰にも助けを求められない。そんな自分自身を無意識のうちに押し込めて。そういう時コウに出会った。二人の温かさを知った。だからそれを急に失って、追い詰められて、やっと本心を言えた。
我ながら、鈍感すぎる。気づくのが遅すぎ。
「もう一人にしない。亜樹に嫌な思いさせない」
コウの言葉で疑念と困惑を思い出す。
「……なんで。……だって、遊び……僕……」
わからない。こんな面倒な僕なのに、どうしてコウはこんな必死になってくれるんだろう。遊びのはずなのに、どうして。僕には、わからない。
「遊びじゃない。遊びのためにわざわざ毎日来るわけないよ」
「じゃ……ど、して……」
「そんなの決まってるでしょ」
顎に手を添えられて上を向かされる。コウの綺麗な瞳と涙に濡れた僕の目が合う。その瞳の中には真剣な光が宿っている。
とくん、とくん、と静かに鼓動する心臓。
「亜樹が、好きだから」
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