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崩壊と萌芽7
「あの日、亜樹に会って、咄嗟に偽名を使った。それだけの関係で終わると思っていたんだ。でも辛かったくせに亜樹が俺のことを心配して。その仕草がどうしても可愛くて、あんな酷いことをしてしまった」
僕に回った腕に力がこもる。コウの胸にますます沈んで、爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。
コウの腕、香り、その全てが僕を安心させてくれる。また一筋、涙が伝った。
「正直、これからも会っていいかなんて聞くべきじゃないと思った。酷いことをしたんだから、謝罪してきっぱり終わりにすべきだって。でも諦めきれなくて、思い切って尋ねて、亜樹は了承してくれて。それからは毎日が楽しかったよ」
僕も。僕もすごく幸せだったよ。楽しかった。
今は黙って聞くべきだとわかるから、心の中で呟く。
また同じ気持ち。コウもちゃんと楽しいと思ってくれていた。コウが真実を告げてくれるたびに嬉しくなって、怯えていた自分が嘘みたいだ。
「……でも、時が過ぎれば過ぎるほど、亜樹に惹かれていくほど、自分の嘘を……告げられなくなった」
コウの声が小さくなる。僕は唇を噛む。
「うやむやのまま毎日過ごして、亜樹に本当のことが知れた。それで情けないことに、怖くなったんだ」
またコウの腕に力がこもった。少し痛いくらい。息が苦しい。
胸もちくちくと痛い。
……でもコウだって痛いはず。きっと僕よりも。
「亜樹の家に行く勇気が出なくて、1度行かないと何度も繰り返して……。その間、亜樹はずっと辛い思いしてたのにね」
無理に緩ませたコウの声。痛々しい。
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