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ここから一歩3
「どうして?」
「……不良だって、怖いって、噂があるから」
「どんな噂? 気になる」
「えっとね……夜遊びとか危険なことを繰り返すし、学校はサボって当然で……、目が合っただけで殴られる。金の巻き上げとかもするし、目をつけられれば人生が終わるんだって、言われてた」
「うわぁ……」
思い出す限りのことを告げると、颯太が苦笑いする。
その気持ちも分からなくはない。だって颯太を見たらそんなこと嘘だとわかる。噂の尾ひれって怖い。
「まあ夜遊びってのは割と本当かも。ただバイトしてただけなんだけど、出歩いているのは本当だし」
「あ……初めて、会った日……」
「そうそう。その時の人たちに目をつけられたのは、たぶん夜中だったせい。肩ぶつかっただけなんだけど、相手酔ってたから」
「……そうなんだね」
僕には想像もつかないけど、颯太にとって夜中に出歩くのは当たり前なんだ。家族の人が心配しないというのはその影響かもしれない。
颯太が不良だというのは信じられない。だけどある意味事実で、そのおかげで、僕らは出会えた。
不謹慎だけれど、そう思えば颯太が不良で嬉しい。
一人で笑みを零していると、颯太の手が僕の頭を撫でる。笑みを深くして、颯太を見上げる。
颯太も微笑みながら僕を見つめていた。しかしその瞳は僕を写していないようだ。もっと遠くを見ているような……
「ね、亜樹」
「何……?」
「なんで俺が学校行くようになったかわかる?」
その視線のまま颯太が聞いてくる。僕は少し考えたが、全然思いつかなかった。
大人しく首を振った。
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