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ここから一歩5
「どうしたの?」
「……これ」
上半身だけ振り返って颯太に持っているものを見せる。
手の中にあるのはリス。結局床に放りっぱなしになっていた。
「あーそれ。まだ袋に入れたままなんだ」
「うん。勿体無くて出せなくて。颯太が来なかった期間に、捨てようとしたけど……捨てられなかった」
「それで床に?」
「うん……ごめんね」
「亜樹は悪くない。それにこれからは心置きなく使えるね」
「うん」
颯太の優しげな笑顔で、目が潤みそうになる。透明袋を口元に持っていってさりげなく顔を隠した。
捨てなくてよかった。未練がましい自分で、今回だけはよかった。
「それにしても絶景、絶景」
「へっ?」
颯太の気の抜けた声で涙が引っ込む。
颯太の方を見ると、布団から顔を出して僕を見ていた。手は景色を眺めるように額に添えてある。
僕が……絶景?
「可愛い亜樹にリス。それから白いお尻」
「なっ……!」
慌てて自分の手でそこを隠す。
すっかり忘れていたが、今は何も着ていなかったのだ。布団から出てしまえば丸見えなのに、僕はそのまま……。
違う意味で涙が出そう。
僕は頬を染め、ニヤニヤ笑う颯太を睨む。
「……なんか颯太、発言がおじさんみたい」
いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇしなんて台詞が似合いそう。変態くさい感じ。
僕の発言を聞いて颯太はからからと笑う。
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