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ここから一歩7

一緒に入ろうという提案は断って一人で脱衣所に入る。そのまま風呂場に向かおうとして、何とは無しに鏡に視線をやった。 ……首に何かある。 着替えを置いて鏡を覗く。 首の一点が赤くなっている。指先で軽く引っ掻いても、膨らみはない。ただ赤いだけのようだ。 「……なに、これ……」 そもそも虫刺されというには大きい。だけど痣のように押しても痛くはない。 「亜樹ー、開けるよ」 「わっ」 ガラッと音が鳴ってドアが開く。 颯太の目に入るのは、全裸で鏡に体を近づける僕。 「どうしたの、自分の体見て」 「ちっ、違う! 首に赤いのがあるから何かなって」 悪いことをしていたように思えて妙に慌ててしまう。僕は断じて自分の裸をじっくり眺めるような人間ではない。 颯太に向かってぶんぶんと首を振る。 「どこ? 見せて」 緩く微笑んだ颯太は僕の首を覗き込む。見やすいように顔を上げる。 「うん。よくついてる。これ、キスマークだよ」 「キスマーク……?」 颯太は満足そうに頷いて僕と視線を絡める。 キスマークという言葉で浮かぶのは模様などにも使われるベタな唇のシルエット。そのイメージと僕の首にある跡はかなり違っているが、これもキスマークらしい。 そういえば昨日の最中、首に痛みが走った時があった。その時につけたのだろうか。あの痛みなら跡が残るのも頷ける。 「亜樹が俺のものっていう証」 「颯太の……もの……」 鏡の方を向いてもう一度首を見る。 これがキスマークということは、見せて歩いたら恋人がいると公言しているも同然だろう。僕の知る常識の中で、それは恥ずかしいことだ。 顔を動かして色々な角度から赤い跡を見る。 少し下の方についているから制服のボタンを一番上まで締めれば見えない。普段着でも何とか隠せそう。 手を伸ばしてキスマークにもう一度触れる。気のせいだろうけど、温かい気がした。 ……別に見えても、いいかな。 恥ずかしい。でも颯太のものって証は、嬉しい。颯太と両想いだと示してくれているから、安心する。 「あーき」 「え、なに?」 「昼、適当に作っていい?」 「そ、そんな悪いよ」 「わかった。冷蔵庫の中身使わせてもらうね」 「あっ、颯太……」 颯太は僕の頭を一回撫でて、脱衣所を出て行ってしまう。 あれよあれよと言う間だった。僕の返答は完全に無視だ。なんだか颯太にだいぶ僕の扱い方を掴まれてしまったような気がする。 こうなってしまったら止めても意味ないから諦めて風呂に入った。

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