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ここから一歩8
颯太が作ってくれたのはバジリコパスタだった。確かに短時間でできる料理だけど、颯太のは適当に作ったとは思えないほど美味しかった。
油っぽくないし、味付けも濃くない。これなら誰もが美味しいって言う味だ。
「わざわざごめんね……」
「そういう時はありがとうの方が嬉しいな」
遠慮がちに謝ると、颯太はさらりと笑顔で返す。
料理もできるし、気遣いもできるし、言動から察するに頭もいい。颯太はどこをとってもすごくて、完璧なんだなって惚れ惚れする。
「あ……ありがとう」
こういう時は謝罪じゃなくて、お礼。ひとつ学んだ僕が控えめに声を出すと、颯太はやっぱり微笑んだ。
それから僕も颯太も食事を再開する。特に会話もなくお互い食べ進めていった。
ただ僕の目線は引かれるように颯太へ行ってしまう。
僕がお風呂から出た後、もちろん颯太も入ったから髪が少し濡れている。頬もどこか赤くて、艶があるというか、色っぽいというか。
普段とは少し違う颯太に僕は釘付けになってしまうというわけだ。
「亜樹」
「なっ、なに?」
そんなに見つめていれば案の定声がかかってくるわけで。
慌てて視線を落とし、いかにも食事を続けている風を装う。そんな小細工をしたってバレているものはバレているんだろうけど。
きっとこの後に続く言葉は『なに見つめてるの?そんなに俺のこと好き?』とかだろう。
颯太はそういう人だ。
「俺の家来る?」
「へっ?」
だけど予想外の返答に僕の口からは間抜けな声。
家に行く。
家に行くってどういうこと。付き合いたてでいきなり家って、それって、どういう……。
「いや、いつも俺が亜樹の家来てばっかでしょ? たまには俺の家でもいいんじゃないかなって。なんか不公平にも思えるし」
「え、あ、ああ……」
1人で先走って考えて1人で慌てて、恥ずかしい。
颯太が朝家にいる状況は前にもあったから、自分の気分は普段通りだと思っていたけれど、やっぱり浮かれているのかもしれない。
「嫌ならいいけど、行く?」
「行きたい」
「わかった。じゃあ食べ終わったら行こうか」
「うん」
何はともあれ颯太の家に行けるのは嬉しい。今まで考えもしなかったけど、1度行ったら、僕が夜中に行く、なんてのもありかな、なんて。
うきうきしてしまって喉に軽く食べ物を詰まらせると、颯太に笑われた。
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