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ここから一歩11
颯太……早く帰ってこないかな。
ローテーブルを挟んでテレビがある。つけていいかわからないから待つしかない。手持ち無沙汰でローテーブルの角を眺める。
「なあ」
「ひっ」
いきなり間宮さんが隣に座ってくる。びっくりして引きつった声が出てしまった。
「恋人さんの名前聞いてなかったな。なんて言うの」
「えと……渡来亜樹、です」
「亜樹ちゃんか」
口調や雰囲気は全然颯太と違うけど、どこか似ているような気がする。それに粗野な感じだけど乱暴ではない。優しさがちゃんと奥に感じられるというか。
恐る恐る視線を上げると、やはり目が合う。先程みたいに優しげな笑みを、間宮さんは浮かべている。
「顔も名前も可愛いんだな」
その笑顔から零れる言葉に、一つ違和感。
そういえば玄関でも可愛いと言われた。
もしかして、間宮さんは、僕のこと、女だと勘違いしている……?
格好も声も見た目も男だと思うのだけど……。
だがもし女と勘違いしているなら、あっさり恋人と認めたのは納得できる。
なら、少し怖いけれど、ちゃんと、誤解を、とかなきゃ。
「あ、あの……僕、お、男……」
「ああ、知ってるよ」
「へっ」
「でも亜樹くんって感じじゃあねぇな。亜樹ちゃんだわ。うん、亜樹ちゃん」
間宮さんは一人でうんうんと頷いている。
……良かったような、良くないような。まあ男の尊厳の代わりに颯太が救われたならいい。
「なな、亜樹ちゃんさ」
「あ……はい」
脳内で僕も頷いていると間宮さんは距離を詰めてきた。距離がかなり近くなってしまって、少しドキドキする。
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