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ここから一歩12

「おれのこと久志さんって呼んでくれよ」 「……え?」 「亜樹ちゃんきっと間宮さんとか呼ぶ気だろ? そうじゃなくて久志さん。頼む」 「……ひ……久志さん……?」 間宮さんと久志さん。 確かに苗字と名前は違うけど、頼むほどなのだろうか。僕にはよくわからない。 不思議に思いつつ呼んでみると、見る見るうちに間宮さん改め、久志さんの顔に笑みが広がっていく。 「それそれ! おれ可愛い子に下の名前呼ばれたかったんだよ! 新婚みてぇでいいな!」 「し、新婚……!?」 豪快に笑う様は颯太とは似ていない。それに颯太よりかなり遠慮がない。ガンガン攻めてくる感じだ。 それは元の性格からか、年齢の影響か。 勢いのいい言葉に僕は翻弄されてしまう。 「反応もおもしれぇな」 久志さんは笑って、ぽんぽんと頭を撫でてきた。 ……颯太と、同じ。 そこでふと気付く。 緊張がいつのまにかほぐれている。 颯太の親しい人という事実と、久志さんの飾らない人柄は、僕自身が驚くほど早く、人に打ち解けさせてくれた。 もしかしたら僕の性格を考慮して故意にしてくれたのかもしれない。 颯太も、颯太の近くにいる人も、いい人だ。 人と関わるのは下手くそなのに、こんないい人に恵まれて、ほくほくする。 「颯太、おせぇな」 「そうですね……」 キッチンの方を振り返って、久志さんがぼやく。颯太のことだからちゃんとした飲み物を用意してくれているのかもしれない。 颯太はいつも丁寧な人だから。 そう、丁寧な……

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