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ここから一歩17
「何か気になることがあるなら遠慮しないで言っていいんだよ。質問していいか聞くのはなしね」
「颯太……」
ぽんぽんと一定のリズムで背を叩かれながら、颯太の声がするすると入ってくる。
やはり颯太は何でもお見通しだ。
僕の顔が暗かったのかもしれないけれど、そういう人の変化に気付けるのってすごい。
「亜樹は一人で考えすぎ。ほら、質問どうぞ」
「えっとね……なんで殺風景なのかなって……思っただけなの……」
「部屋?」
「うん」
「……うーん、思い出はさ、少ない方がいいから、かなぁ」
「……え?」
少しトーンの落ちた声でポツリと呟かれた言葉。
思い出が少ない方がいいってどういうことだろう。思い出は多ければ多いほど楽しそうなのに。
顔を見ようとしたが抱きしめる力が強まるだけ。
「いや、亜樹と思い出を作りたくないとかじゃないよ? ほら、部屋に思い入れ強い物増やすと減らす時大変だし」
「そっか……確かにそういうの困るね」
「でしょ」
ここが今の精一杯。それ以上、踏み出してはいけないライン。
でもそれで十分だ。颯太と一緒にいれるだけで僕は幸せ。それにこれからお互いにもっと歩み寄っていけると思うから、今はこれでいい。
「そうだ!」
「へっ!?」
急に颯太が大声を出すから僕も無駄に大きな声を出してしまった。感傷に浸りそうだった気分が一気に飛んで行く。
颯太は僕の肩を掴んで距離を離す。そして嬉々とした表情で僕を見た。
「明日、デート行こう」
「デート……?」
甘い響きに僕の頭は溶かされる。
デート。
生まれて初めてだ。自分には縁がないものだと思っていた。
だからこそ中身は未知で、キラキラした憧れもあって。
きっと僕の表情は煌々としていたのではないかと思う。
「どこか行きたいところある?」
「わ、わからない」
「じゃあ俺が行き先決めるね」
「わかった……!」
こくこくと何度も首を振る。
どうしよう。どこ行くんだろ。何するんだろ。
颯太となら何でも素敵に決まっている。楽しみ。嬉しい。
次々に思いが溢れてきて思わず笑ってしまう。
「あーもう、可愛いな」
颯太は困ったように言うと僕の唇に自身のものを重ねてきた。
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