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始めてのデート5
「まず奥にやって……ストップ。次は右に……そう。少しずつ奥にやって……よし、押して」
颯太に言われるがままに操作し、アームを止める。目視する限りは青いリスの真上にある。
ボタンを一回押すと降りていくアーム。それが戻ってくると、ちゃんと青いリスを掴んでいた。
もちろんそのアームはダストにリスを落とす。
「やった! 取れた!」
「初成功だね、亜樹」
「うん!」
ほぼ颯太のおかげのような気もするけれど、嬉しいものは嬉しい。
ダストに手を突っ込むと颯太がくれたリスと同じ感触が伝わってくる。手を抜くと視界に青いリスが入る。
「これ颯太にあげ……」
興奮そのままにリスの乗った手を差し出して、途中で止める。
これが本当にお返しになるのか。
そんな疑問が突如として浮かんでくる。
普通、男の人はこんな可愛らしいものを貰っても喜ばない。僕は颯太がくれたものなら何でも嬉しいけど、颯太に当てはまるとも限らないし、僕と違って可愛らしいものが好きとも思えない。なのにお返しだなんて、笑える。
一度脳内を占めた考えは消えなくて、手を引っ込めようとした。だがそこからリスが消える。
「くれるの? ありがとう」
「あ、うん……」
「亜樹とお揃いだね。……でも何より、亜樹がくれたってことが嬉しいよ」
「颯太……」
優しく笑って僕の髪をすく姿はとても一つ違いとは思えない。もっとずっと年上のようだ。
颯太の手の感触を堪能してから黄色のリスを丁寧にカバンにしまう。
「さて、と。もう少し見て回る?」
「えっと……うん」
なんだか疲れてしまって、本当は静かな場所に行きたい。街のざわめきにも慣れていないのに、ゲームセンターの爆音を聞き続けたからだろう。
僕の返事を聞いた颯太は思いついたようにスマホを取り出す。
「あーでも、もうお昼時だしご飯食べに行こうか」
「あっ……うん」
通ったばかりの道を逆に辿る。自動ドアを潜り抜けると、耳をつんざく音や絡みつくような騒音からやっと解き放たれた。
颯太の優しさにまた甘えてしまった。
臆病な僕はつい縋ってしまうけれど、いつかはちゃんと遠慮を乗り越えたい。
「いいお店があるんだ」
「そうなんだ。楽しみ」
案内をしてくれる颯太の少し後ろからついていった。
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