午後からは明確な目的地があるらしく駅に向かった。 普段使わない駅だから完全に颯太に任せっきりだ。僕は颯太の横を必死に守った。 はぐれるほど混み合ってはいないけど、そこそこ人は多いから。 そして駅のロータリーのあたりに差し掛かった時だ。僕がぼんやりどこに行くのだろうと考えていた時。 「ーー亜樹」 恐ろしいあの人の声が、背にかかった。 人混みのせいにして聞こえないふりをすればいいものを、僕の体は反射的に立ち止まってしまう。 胸のあたりで手をぎゅっと握って、そろりと振り返る。 黒い瞳がそこにはあった。 偶然って酷い。 それとも、もしこれがカルヴァンの予定説みたいにあらかじめ決められていたなら、神様を恨みたい。僕は今までそこそこ頑張って、少なくとも悪いことはせず、生きてきたはずなのに。 「久しぶりだな。一緒にいるのは誰だ？」 その声を聞いて颯太も振り返る。 「お前は……間宮颯太か」 「どうも。九条生徒会長」 颯太はさりげなく僕を後ろに追いやってくれる。かたかたと震えだした手をおさえて、影から二人のやりとりを見る。 「なぜお前が亜樹と一緒にいる？」 「亜樹が誰といようとあなたには関係ないですよね。まあ、強いて言うなら恋人だからですけど」 「恋人だと？ お前と、亜樹が？ 冗談を言うのも大概にしろ」 「冗談じゃないです。ちゃんと想い合ってますから」 二人の間に静かな火花が飛んでいるみたいだ。 この二人は知り合いだったのだろうか。すごく意外だ。 でも考えてみれば納得がいく。生徒会長は僕にあんなことをするが、真面目な人ではある。 演じているのか本心かはわからないが、生徒会長として素行の悪い生徒には目を光らせ、時には注意もしているという。 だから噂の上では極悪の不良な颯太に目をつけていたり、接点があってもおかしくない。 「亜樹。こんなやつやめておいた方がいい」 「……ぁ」 急に話を振られて驚く。 笑顔なのに笑顔じゃない。漆黒の瞳が細められて、僕を射る。気管が狭まって、ひゅっと喉から音が鳴った。 颯太は不良なんかじゃない。とてもいい人なんだと、伝えなきゃ。 でも、声が、出ない。怖くて、怖くて、仕方ない。