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初めてのデート8
「亜樹が嫌がっているのでやめてもらえますか。それから俺たち用があるので失礼します」
颯太の背が僕の視界を塞ぐ。そして彼に一礼すると、僕を隠すようにして歩き出した。
恐怖に染まった僕は何も考えられず颯太に従った。
されるがままで辿り着いたのは、人通りの少ない高架下。
「亜樹、大丈夫?」
「ごめ、なさい……いい人だって、言え、なくて……」
「そんなのはいいんだよ。他人にどう思われようと関係ない。それよりも随分怯えていたみたいだけど……」
「……」
嫌だ。
そんな気持ちがぽつんと浮かぶ。
あの人は怖い。近くにいるだけで、話しかけられるだけで、震えて、話せなくなってしまう。僕の中で一番怖いのはあの人で、怖いことはあの人と一緒にいることだ。
でも今はそれ以上に怖いことができてしまった。
颯太は優しいから許してくれるかもしれない。だけど他の男に抱かれた恋人なんて、嫌に決まっている。しかも今だってその関係は切れていない。
「前に委員会であの人と一緒で……僕が失敗しちゃって……それで怒られたんだけど、元からあんな口調だから……その、それから怖くなって……」
嘘を一つつけば、その嘘にまた嘘を重ねざるを得ない。こうよく聞くけれど、それは本当で。
自分への嫌悪や罪悪感にまみれていく。
「……そっか。確かに硬い口調だから怖いよね」
颯太の顔は見られなかった。
傷つけているってわかるから。
それでも弱い僕は心の中で謝ることしかできない。
だけどきっと颯太が次に言う言葉は。
"駅行こうか"
「駅行こうか」
颯太はどこまでも僕を信じてくれる。
それは嬉しくて、辛い。
「……うん」
「これから行くところ、絶対に亜樹好きだから。楽しみにしてて」
「……うんっ」
だけど颯太が笑顔を向けてくれるから、僕もそれに返すんだ。
優しさを享受して、僕の表面を、塗り固めていくんだ。
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