99 / 961
初めてのデート10
「動物園……!」
駅から出て少し歩くと、目の前には大きな看板。動物の絵がこちらを見ている。そして大きく園名が書かれている。
入場口にするすると人が吸い込まれていく。子供づれもカップルも友人同士も、いろんな人が。
「そう。亜樹、動物好きだって言ってたから」
「うん、好き……。動物園初めてだよ」
「実は俺もなんだ」
「えっ……」
颯太はてっきり来たことがあるのだと思っていた。だから連れてきてくれたのかと。
たとえ家族で来たことがなくとも、交流関係は広いだろうし、彼女も絶対いたはずだから、一回くらいはありそうなのに。
ということは僕に合わせて無理していることになる。僕が好きだからと、わざわざ好きでもないところに……
「ああ、別に興味ないわけじゃないよ。俺も動物好きだから」
「そうなんだ……」
少し安心。
頬を緩めたら、颯太はにやりと笑う。
「特にリスが好き」
「あ……え」
それはもしかして僕のことかな、と一瞬考えてすぐに恥ずかしくなる。
そんなことはない。そんなことはない。
確かにリスに似ているとは言っていたけど、今のは動物のことに決まってる。だって動物園に行こうとしてるんだから。いくらなんでも舞い上がりすぎだ。
「もちろんどっちのリスも好きだよ」
「……っ!」
何か言いたくても言えなくて、唇がわなわなと震える。
酷いって言おうとしたけどなんか違うし、どこか申し訳ないし、でもからかわれてばかりだからやり返したい気もするし…………
「さ、行こう」
「あ……うん」
軽く手を引かれる。僕は慌ててついていった。
ともだちにシェアしよう!