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初めてのデート10

「動物園……!」 駅から出て少し歩くと、目の前には大きな看板。動物の絵がこちらを見ている。そして大きく園名が書かれている。 入場口にするすると人が吸い込まれていく。子供づれもカップルも友人同士も、いろんな人が。 「そう。亜樹、動物好きだって言ってたから」 「うん、好き……。動物園初めてだよ」 「実は俺もなんだ」 「えっ……」 颯太はてっきり来たことがあるのだと思っていた。だから連れてきてくれたのかと。 たとえ家族で来たことがなくとも、交流関係は広いだろうし、彼女も絶対いたはずだから、一回くらいはありそうなのに。 ということは僕に合わせて無理していることになる。僕が好きだからと、わざわざ好きでもないところに…… 「ああ、別に興味ないわけじゃないよ。俺も動物好きだから」 「そうなんだ……」 少し安心。 頬を緩めたら、颯太はにやりと笑う。 「特にリスが好き」 「あ……え」 それはもしかして僕のことかな、と一瞬考えてすぐに恥ずかしくなる。 そんなことはない。そんなことはない。 確かにリスに似ているとは言っていたけど、今のは動物のことに決まってる。だって動物園に行こうとしてるんだから。いくらなんでも舞い上がりすぎだ。 「もちろんどっちのリスも好きだよ」 「……っ!」 何か言いたくても言えなくて、唇がわなわなと震える。 酷いって言おうとしたけどなんか違うし、どこか申し訳ないし、でもからかわれてばかりだからやり返したい気もするし………… 「さ、行こう」 「あ……うん」 軽く手を引かれる。僕は慌ててついていった。

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