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初めてのデート12
颯太の隣にしゃがむ。
いっぱいのリスが周りを歩いたり、その場に留まっていたりする。流石に自分から寄って来ないけれど、人の手に触れられるのは嫌がっていないようだ。
そっと一番近くのリスを掬い上げる。
「わぁ……」
人形とはまた違った柔らかさ。むしろ少し毛が刺さるような気もする。
だけど、温かい。
「颯太、可愛いね」
「うん。小さくてすぐ壊れちゃいそう。包み込んであげたくなる」
颯太は片手にリスを乗せて、人差し指でリスの頭を撫でていた。
爽やかなイケメンと可愛いリス。
絵になるなぁってしみじみと感じる。
「今日はリスまみれだね」
「俺はリス好きだから嬉しい」
愛しそうにリスを撫でる颯太を見つめ、僕も言葉を発する。
「……僕も好き」
「ん?」
「颯太に出会ってから、好きになった」
するりと素直な思いが滑り落ちた。
なぜか心がとても凪いでいて、今言いたいって思った。
今なら恥ずかしがらずに言える。
「リスだけじゃないよ。夜も、好きになった。人も前より苦手じゃなくなったし、この頃、毎日が楽しい。全部、全部、颯太のおかげ」
寄せては返す波のように目の前が明るい思い出で埋まる。どれもこれも最近のものばかり。颯太と出会ってからのこと。
リスの体を撫でながら言葉を紡ぐ。
「普段は恥ずかしくて言えないけど、いつもすごく感謝してるんだ。僕ちゃんと、颯太のこと大好きだよ」
言い終えて、視線をリスから颯太に移す。するとその顔は珍しく笑顔じゃなかった。
泣いてしまいそうな歪んだ顔。
「颯太? どうしてそんなか……」
「違う。違うんだよ、亜樹」
「違うって何が……?」
「あ……いや、ううん」
言葉を遮った颯太の視線は僕をすり抜けている。僕が戸惑って問いかけると、すぐにいつもの笑顔になった。
「ただ嬉しかっただけ。不意打ちだったから油断した」
照れ臭そうに笑う顔も、僕の髪をすく手もいつもと同じ。
垣間見えた颯太の弱さは、僕が飲み込む前に消えてしまった。
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