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恋の閑話3

こんないい人を世の女性は放って置かないに決まっている。気遣いとか口ぶりとかも、彼女がいた人のそれだ。 それにもし初恋というのが本当なら、キスとか、デートとか、それ以上のこと……とか、僕が初めてになるのかな。 それは嬉しいけど、俄かには信じがたい。 「昔はそんな暇なかったし、高校入ってからも、不良になってからも、恋愛には一切興味なかったんだよねぇ……。バイトばっかりって感じで。それに恋愛慣れしてる男が、好きな子一週間も放置すると思う?」 「それはしない……のかな……」 「ね? だから正真正銘、初恋。だけど俗説に屈するつもりはないよ。亜樹のこと一人にしないって決めたから」 「颯太……」 颯太の真剣な眼差しに胸がきゅっと締め付けられる。 颯太が来なくなった日や想いが通じあった日のことが自然と頭に浮かぶ。颯太はあの時から、いや、あの前からずっと、僕を大切にしてくれているんだ。 「俺はちゃんと、亜樹のこと大好きだよ」 「……っ」 ……これは、確かに、泣いてしまいそう。 あの時の颯太の気持ちがわかった気がする。嬉しくて、切なくて、幸せで。そんな気持ちが瞳に集中したような。 「それでもまだ不安?」 「ううん。もう平気」 自分から抱きついてみる。ちゃんと回ってくる腕が嬉しい。 先のことなんてわからない。だから人は不安になる。でも颯太と一緒なら平気だろう。 なぜだかそう思う。二人一緒なら、きっと。 「うーん、でもさ」 なぜだろうか。 カチッとその場の空気が変わった気がする。 「亜樹は心配性だから、やっぱりまだ不安なんじゃない?」 「えっ……いや、そんなこと……」 ドサッと布団に押し倒される。僕の上には颯太の素敵な笑顔。 「だから俺がどれだけ亜樹を好きか、体に教えてあげる」 「あ、や、もう平気……」 颯太の笑みに本能的な恐怖を感じる。 「でもそれがいつまで続くのか考えたら、ね?」 「〜〜っ」 また僕の言葉を使われた……!

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