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不穏の気4

教室のドアが開く。颯太が帰ってきた。 僕の心には大きな安堵が一気に広がる。 「亜樹、ただいま」 「……おかえり」 だけどここでその安心を出してはいけない。笑顔を作るのが得意でよかった。 しばらくぶりに学校に来た颯太は色々やることが多いみたいだ。噂もあるから、きっと信用を得るために毎日大変な思いをしている。 だからこの問題はどうにか一人で解決しよう。 「なんかあった?」 「んー……実は少し、めまいが……」 颯太が僕の笑顔の上をいくなんて想定済み。弱々しく笑って額に手をやる。‪ 本当はこのところめまいは夜中にすら起こらない。デート以来、彼が全く接触してこないからかもしれない。颯太の存在も大きいような気がする。 「大丈夫? 帰らなくて平気?」 「うん。授業受けたいし」 ちくちくと痛む心は颯太のため。颯太のためなんだ。 自分に言い聞かせて笑んで、笑んで。 「俺がノート取っておくのに」 「直接聞きたいんだ。その方が理解できるし」 「なら俺が教えてあげよっか? 手取り足取り」 「もう」 妖艶に笑う颯太から顔を逸らす。 すぐに僕をからかうんだから。 でもこういう小さな会話が、僕の不安を覆ってくれる。 まだ何にも思いついていないけど、こういう小さな幸せを守るためにも頑張らなきゃ。

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