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対立1
流石に何か行動に出なければいけない。
そうだと理解はしている。日増しにクラスのみんなの視線が厳しくなっているし。
でもやはり勇気は出なかった。
昼休みなので颯太と机をくっつけて昼食を広げる。僕はお弁当、颯太はコンビニだ。
「亜樹、手作り?」
「うん」
「すごいね、一口ちょうだい」
「だ、だめだよ。残り物だもん」
こんな会話をしている時にもクラスの視線は刺さってくる。前に視線を向けまいと気をつけるから、会話も時々上の空になってしまったりする。
「けちだなぁ、亜樹は」
「そ、颯太には、ちゃんとしたもの作りたい、から……」
「手料理作ってくれるって約束だもんね。その時を楽しみに今は我慢しとく」
「うん……」
本来なら颯太と一緒の学校生活は楽しいはずなのに。
でも、どれもこれも僕に意気地がないせいなんだろうなぁ……って。
俯いたままご飯を食べていると颯太が僕の名前を呼ぶ。
「亜樹」
「なに?」
「悩んでいることがあるなら、言ってね」
「へっ? 大丈夫だよ。ないよ?」
いつもの優しい笑みで僕の頭を撫でる颯太。
こんな人に心配はかけられないって思いはますます募って、やっぱり僕は嘘をつく。
普段なら颯太は『そっか』って引いてくれるはずだった。
「……俺ってそんなに頼りない?」
だけど今日返ってきた言葉は予想しえないもので。
「……え? そんなこと思ってな……」
「じゃあなんでいつも誤魔化すの? 亜樹は隠し事ばかりする」
責めるような颯太の口調。
この時の僕は颯太の表情が、ただ辛いものだと気づけなかった。颯太の言葉に不満を覚えてしまったのだ。
「なに、それ」
「なにって……。だって亜樹はいつも俺に遠慮して誤魔化す。色々隠してるってわかってるよ」
「そんなの……そんなの颯太だってそうだよ。颯太も隠してることあるくせに」
「それは亜樹が聞いてこないから。俺の場合は聞いても誤魔化される」
「……ずるい。聞けない雰囲気作ってるくせに」
これが喧嘩、というものだろうか。
気づくのは少し遅れてから。
喧嘩など初めてなのに、驚くほど言葉に詰まらなかった。
相手がどう思うとか、傷つくとか、考える前に、言葉が飛び出す。自分の中に溜まっていた思いが弾けて、言わなくていい言葉を吐いてしまう。
本当は喧嘩なんて、したくないのに。
「聞けない雰囲気? 亜樹が勝手にそう思ってるだけでしょ?」
「じゃあ颯太は聞いたら答えてくれるっていうの?」
「……答えるよ」
「今、少し間があった。本当は答えてくれないんだ」
「なにそれ。そうやって亜樹は……ああっ!」
颯太は苛ついたように声を上げ、乱暴に席を立つ。
「もういい」
そしてそのまま教室を出て行ってしまった。
『颯太にもそうなら、あいつがつれぇよ』
久志さんの言葉が今更、思い出される。
なら、僕はどうすればよかったのだろう。
実は颯太はみんなから疎まれているから、学校に来ないで欲しいって言えばよかった? それとも、実は僕は会長に犯されていて、穢いよって言えばよかった?
言えない。僕なんかにそんなこと。
「どうすればよかったの……」
僕の悲痛な声は誰にも届かない。
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