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対立2

昼休みが終わったあと颯太は教室に戻ってきた。だけど僕と会話することはなかった。僕に一瞥もくれない。 もちろん放課後も一人で帰った。 次の日の朝も一人ぼっちで登校した。颯太と何も話さずに午前中を終え、昼休みも無言。午後だって同じで、放課後もまた一人。 隣にいるのは確かに颯太なのに、すごく遠く感じる。すぐに触れられる距離がかえって辛かった。 隣を見ても目が合わない。笑いかけてくれることもない。くだらない話をしたり、頭を撫でてくれることもない。僕はまた一人だ。 どうしてこうなってしまったのだろう。僕はただ、颯太を守りたかっただけなのに。 何度も、何度も、後悔した。 たった一日なのに颯太と関わらない日は辛くて、辛くて。 でも同時にどうすればいいかわからない。 もう元には戻れないのだろうか。 不意にそう思うたび、胸が張り裂けそうだった。 家に帰ってから何もする気が起きなくて、早めに寝てしまった。すると辛いことにまた夜中に起きてしまう。 ザーザーという音が聞こえるから、外は雨が降っているのだろう。 するとなぜか僕の足は自然と窓へ向かう。カーテンをめくると、雫が窓全面を埋めていた。次々ぶつかって、粒同士が合わさって、流れていく。 鍵を開けてみる。 窓を開け、土砂降りの音を聴いてみる。 足が勝手に外へ向かって動いた。 裸足のまま地面を踏む。あっという間に全身が濡れる。 空を見上げるとただ真っ暗で、星も月もない。 絶え間無く打ち付ける雨の音が耳を埋める。 裸足から伝わる地面の感触は、僕の脳にリアルに感じられて。耳に入る音は余計な考えを消してくれるようで。 ずぶ濡れの僕はフラフラと歩き始める。 「……何、してんだろ」 ポツリと、呟いた。 気づけば颯太の家の前にやって来ていたのだ。思わず自嘲してしまう。 馬鹿みたいだ。喧嘩しているのに結局求めてしまうなんて。 見つかる前に帰ろう。そうして背を向けたとき、 「亜樹ちゃん?」 僕の背に声がかかる。 「ひさ……し……さん……」 「どうした? ずぶ濡れじゃねぇか。とりあえず家入るぞ」 つかつか歩み寄って来た久志さんは、僕の方に手をやって連れて行こうとする。だけど僕は咄嗟に抵抗してしまう。 「大丈夫だ。颯太はいねぇよ」 久志さんは静かに言って、僕の肩を抱く。もう憔悴しきっていた僕は、大人しく家に入った。

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