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対立4

やっと放課後になっていざ颯太に話しかけようと思ったら、颯太は席を立ってしまう。カバンは置いたままなので待つことにした。 「渡来」 すると鋭い声が僕に飛んでくる。清水くんだ。 清水くんはこちらに来ようとはしない。視線で僕が来るように指示している。颯太とのことで抜け落ちていた問題が蘇ってきて、恐怖を抱きながら清水くんの元へ行く。 その途端、クラスのみんなに周りを取り囲まれてしまった。 だけど今が好機かもしれない。逃げられない状況は、臆病な僕に機会を与えてくれる。ちゃんと話そう。 「渡来、いつになったらあいつに言うの? なんか喧嘩したっぽいけど結局来てんじゃん」 「あの、そ、そのことで……話したいことが、あるんだ」 言いたいことはちゃんとまとめた。その内容はもう頭に入ってる。 大丈夫。大丈夫。 自分に言い聞かせて、息を吸う。 「あの、颯太は……」 「おい」 意を決して声を出した僕の言葉を、誰かが遮る。 僕含めクラスのみんなが声の出所を見た。 「そう……た……」 それは教室の入り口に立つ颯太で。 見たこともないくらい不機嫌そうな顔をしている。いつもの優しそうな表情は全くない。 颯太は僕を囲む人だかりの方へやってくる。そして人混みを掻き分け輪の中に入ると、僕を後ろへ押しのけた。 「文句があんなら俺に直接言えよ」 物凄く低い声が颯太の口から出てくる。汚い口調もその声も、颯太のものとは思えない。とても冷たい声音だ。 颯太の方が背が高いから、清水くんは少し見上げる形になっている。それ以上に颯太の威圧にたじろいでいた。 「こいつは小間使いにちょうどいいから一緒にいただけだ。なのに何か命令したって俺の行動は変わんねぇよ」 "こいつ"と僕を指差しながら颯太は言う。 颯太の突然の行動に、僕は目を白黒させてしまう。どうしてこんなことを言うのだろう。まさかこっちが本性なんて……流石に、ありえない。 そうは思っても颯太の様子は演じているように見えない。僕の心はズキズキ痛みだす。 「わかったな? 言いたいことは直接言え。こいつは関係ない」 「お、おう……」 唖然とした清水くんがなんとか声を絞り出す。その返事を聞いた颯太は身を翻した。 いまだ状況の掴めない僕は颯太を見るけれど、冷たい眼差しすら僕に向けてくれない。 そのまま颯太が去ろうとすると、自然と道が拓けた。僕だけがその場で立ち尽くす。 「……っ」 すると去り際に、颯太の手の甲が僕の手に、当たる。 触れたか、触れないか、わからない程度のもの。 きっとはたから見ればたまたまぶつかったようにしか見えない。 だけど僕にはわかった。今のはわざとだって。 颯太は僕を庇って、自分だけ悪役になろうとしてるって。 「颯太!」

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