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素直な気持ちを3
「あの人のことならまだしも、クラスのことは相談して欲しかったなぁ」
僕の涙がやんできた頃に颯太がそう言った。僕は颯太の胸から顔を上げた。
「颯太……どうして知ってるの……?」
「亜樹の態度とか、クラスの様子とか見てたらわかった。大方亜樹に、俺を学校に来させないよう言わせるつもりだったんでしょ」
「うん……。颯太に言ったら、傷つくと思って……」
「そんなのなんともないよ。それより亜樹が悲しむほうがいや」
「颯太……」
颯太はいつも僕のことばかりだ。
また涙が滲みそうになってまた颯太の胸に深く顔をうずめた。
「まあでも亜樹が追いかけてきたから台無しになっちゃったけどね」
「じゃあ、やっぱり教室のは……」
「演技に決まってる。俺が亜樹を嫌うわけないでしょ?」
颯太は優しく頭を撫でてくれた。
その言葉に、僕の心は揺れ動く。
僕は、何をやっているのだろう。
颯太に嫌われたくないとか、クラスに拒絶されるのが怖いとか、自分のことばかり考えて、結局何もしていない。
颯太は僕を守るために、あんな辛いことをして、僕を拒絶することさえした。颯太は僕を第一に考えてくれる。
僕は一度だってそうしたことがあったろうか。颯太を守れたことが、あっただろうか。
「颯太はここで待ってて」
「亜樹?」
颯太に告げて僕は走り出した。教室に向かって。
恐怖とか、怯えとか、もうどこかへ行った。そんなことどうでもいい。颯太のことをみんなにわかってもらいたい。
ただ、それだけ。
息急き切って走り続ける。
階段を駆け上り、踊り場を超え、また上って、廊下を走って。
運動が苦手な僕はもう息が上がってしまうけど、なんとか教室に辿り着いた。
「あの!」
そして僕は出て行った時と同じように、叫んだ。
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