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素直な気持ちを4
みんなは出て行った時のように教室の真ん中あたりにいて、何か話し合っていたみたいだ。僕はその人だかりへ向かう。
視線は全て僕に注がれている。
「さっきは怒鳴ってごめんなさい」
今度は自ら輪の中に入って、清水くんの前に立った。
怖くない。体中に勇気がみなぎって、どもる気配も震える感じも皆無だ。
「でも僕の言ったことは本当なんだ。確かに颯太は学校に来ていなかったし、夜中に出歩くような人。尾ひれのついた噂ができる発端を作ったことは否めない」
クラスはしんとしてただ僕の言葉に耳を傾けている。
興奮して周りを見回す余裕のない僕は清水くんを見ていた。清水くんもじっと僕の言葉に聞き入っている。その表情の意味は読み取れない。
「だけど本当の颯太はすごく優しくて、いつも人を気遣うような人なんだ。僕を何度助けてくれたかわからない。颯太に出会っていなければ、今こうしてみんなに向かって話すことさえできなかった」
僕の言葉は届くだろうか。
興奮した脳の片隅で、そんな考えがよぎる。
でも、大丈夫だ。誠実な言葉は、率直な思いは、みんなに届くはずだから。颯太には、届いたから。
それにもし今日がだめでも僕は何度だってみんなを説得するつもりだ。
わかってもらえるまで、ずっと。
石の決意を胸に抱き、最後とばかりに息を吸う。
「噂の真偽に関係なく、みんなが"不良"を怖がるのはわかる。でも信じてほしい。颯太はそんな人じゃないって。どうか颯太が学校に来ることだけは、認めてください」
ぎゅっと目を瞑って頭を下げる。
沈黙が教室に降りて、自分の息の音すら聞こえてくる。膝を強く握る。
……届け。
届け、届け。
僕の思い。颯太の未来。
届け……。
「……そんな言葉、信じられるかよ」
ぽつりと落ちた清水くんの声。
僕の脳に大きな衝撃を伴ってぶつかってくる。唇を強く噛んだ。
やっぱりだめなのかな。僕がいつまでも答えを引き延ばしていたから、信頼なんて消え去ってしまって、もう戻れないとこまで来てしまったのだろうか。
手が震える。絶望が顔を見せ始める。
嫌だ、そんなの…………
「俺からもお願い」
ざわっと教室がわいて、みんな入り口を見る。僕も顔を上げて、見た。
まただ。僕はまた、助けられてしまう。
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