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素直な気持ちを6

夕焼けの中、僕と颯太は二人並んで歩く。 一緒に帰らないのはたった二回だけだったのに、とても久しぶりに感じる。 僕はずっと気分が良くて、いつもより颯太に近づいた。 「今日はありがとう、亜樹。俺のこと、守ってくれて」 「そんな……颯太が来てくれなかったらだめだったよ……」 「ううん。亜樹の頑張りがあってこそだよ」 「颯太……」 見つめ合って、笑い合って。すごく、幸せ。 やっぱりこの時の僕は大胆で、幸せに身を委ねてそっと颯太の手を握った。はにかみながら視線だけで颯太を伺うと、颯太を驚いた顔をしたあと、すぐに微笑んだ。 そして顔が近づいて来たかと思うと……頬にキスをされた。 「あっ……だ、誰かが見てたらどうするの」 空気の甘さに耐えきれなくなって思わず俯く。 「手を繋いでるんだからもう遅いよ」 「じ、じゃあ……」 「じゃあ?」 唇の触れた頬が熱い。そこからじわじわと熱が広がっていく。 久しぶりの颯太の体温が嬉しい。笑顔を必死にこらえ、不満げな顔つきで颯太を見上げた。 「……どうして、口にしてくれないの?」 「…………あー、もう」 "可愛いな"の代わりに唇にキスをくれる。戯れのように何度も唇を合わせたり、下唇を噛まれたあと、また長く口付けたり。 でもいつまでたっても舌は入ってこなくて、甘さだけが脳に注がれていく。でも僕は甘さと、それからもう一つ、求めてしまって。 僕から舌を入れようとしたところで、パッと唇は離れていった。 「今はここまで。続きは家で」 「そ……うた……」 妖しげに笑む颯太をぽわんとした顔で見つめる。 「今日の亜樹は大胆で可愛いから、お仕置きは軽めにしてあげるね」 「お仕置き……? な、なんで……」 「あの人にイロイロされていたこと、言わなかったもんね」 「う……」 「それに清水くんの手を握った」 「そっ……れは、仕方なくて……」 「おまけに昨晩、久志さんの部屋に泊まったでしょ?」 「なっ……」 なんで知ってるの。 言葉は最後まで紡げなかった。 どうしてわかってしまったのだろう。昨日の僕に今会えるとして、帰れなんて言えないけれど、大変だ。颯太のところに泊まるより先に、久志さんのところに泊まっちゃったんだから。 そりゃあ昨日のは仕方ないとはいえ……。 「玄関に亜樹の靴あったから」 「……昨日、帰ってたんだね」 「一応ね。どうしていたの?」 「辛くて……雨の中歩いてたら、颯太の家に行っちゃったの……。久志さんが家に入れてくれて、話聞いてもらった……」 「慰めてもらったわけか」 「ごめんなさい……」 颯太以外の人に涙を見られるのは久志さんが初めてだ。 今、僕が思うように、颯太もきっと昨日一緒にいるのが自分ならって思っている気がする。 颯太の手をきゅっと握って、顔を見つめる。 「俺の方こそごめん。亜樹が廊下で止めた時、意地はったりしたし……」 「ううん。颯太は助けに来てくれたから」 「亜樹……」 少し背伸びして颯太の口に自分のを重ねる。繋いだ手を恋人つなぎに変える。 「帰ろ?」 「……うん」 夕焼けに照らされた僕らの影は混ざって溶け合っていた。

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