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片影1

颯太が欠席の日があった。その日はただの風邪だろうと思い、スマホでメッセージを送って終わった。 だけど次の日もその次の日も颯太は学校に来なくて、返信すらも来なかった。土日も夜に会うことが決まりなのに、結局来なかった。 流石におかしいと思った僕は、放課後に久志さんの所へ行くことにした。 すっかり見慣れてしまった道を歩いていく。左右を風が通り抜けて行く。 歩き続けていると目に映る白と黒の外観。 車の横を抜けて玄関のチャイムを押す。家の中からその音が聞こえる。 「ほいほい。……おお、亜樹ちゃん」 程なくして久志さんがドアを開けた。珍しく髪が結ばれていない。 「こんにちは、久志さん。あの、颯太いますか?」 「あー、今いねぇの。つーかこのところ帰ってこなくてよ」 「……やっぱり。どこか心当たりとか……」 「いんや。前にも割とあったことだから平気だろって感じ」 そう言って久志さんはいつも通り笑う。颯太に似た優しい笑顔。 しかしどこか違和感があって、嫌な予感もなぜかすごく感じる。 過去に何があって不良になったのかはわからないけど、颯太は最近すごく真面目だった。だから前のように戻るとは思えない。 この考えと、拭いきれない不安と。 「といっても心配してねぇわけじゃねぇから、一応探してみるわ。何かわかったら教えるからよ」 そう言って久志さんは早々とドアを閉めようとする。それを思わず止めてしまった。 「亜樹ちゃん?」 「あっ……あの、颯太の部屋、見てもいいですか?」 「……おう。いいぜ」 ここに留まっていたとしても、何か分かるわけではない。でもどうしても不安だった。 久志さんについて家の中に入り、一人で颯太の部屋に向かう。 そうっとドアを開ける。とても静かな空間だった。 そして相変わらず、あるのはベッドと丸テーブルだけ。とても淋しい部屋だ。 「……あ」 だけど一つだけ部屋に合わないもの。 僕は丸テーブルの前に座って、それを手に取った。 僕があげた青色のリスだ。ちゃんと飾ってくれている。僕がくれたということが嬉しいと、言ってくれた。 「……颯太、どこに行っちゃったの……」 色々な思い出が切なさを伴って押し寄せてくる。溢れそうになった涙を必死にこらえた。 今はまだだめ。泣いちゃ、だめ。泣いていいわけない。 顔を上げて、もう一度部屋を見回してみる。やっぱり殺風景なことに変わりなくて…… 『思い出はさ、少ない方がいいから、かな』 ふと浮かぶ言葉。 初めて僕が部屋に入った時、颯太はそんなことを呟いた。今考えてみると、この状況を予想していたように思えてくる。 颯太はいつかここを出て行くつもりだったのだろうか。でも僕に別れも告げないなんて、考えられない。 ということは……攫われた? すぐに首を振る。 そんなのありえない。第一誰が攫うって言うんだ。 そうは思っても、何か得体のしれない塊が、喉元からじわじわと迫り上がってくるようだった。

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