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片影2
颯太の家を出たあと、僕は市街地へ繰り出した。居ても立っても居られなかったのだ。
颯太と一緒に通った道をくまなく探したり、一緒に行った店を見に行ったりした。ゲームセンターにも入った。思い切って動物園にも行った。もう閉まっていたけれど。
僕の中のありったけの勇気を振り絞って、行く先々で颯太を見なかったかも聞いた。
だけど、何一つ情報はなかった。
市街地に戻ってくる頃にはもう辺りは薄暗くなり始めていた。最後に路地だけ確認しようと僕は歩き出す。
あって欲しくないけど、もしかしたら暗がりに倒れている可能性がある。逃げ出してきて、隠れていることも……。
通りの光から離れ、人通りの少ない道へ。光が半減したそこにも颯太はいなくて、安心と哀しみが一緒に湧く。
一応、建物と建物の間も入っていった。ここは真っ暗で、建物内の機械音が漏れ聞こえたり、猫が喧嘩しあったりしていた。ゴミ箱を避けながら颯太の姿を探す。
すると。
「ねぇ」
腕を掴まれる。振り向くとそこには一人の男がいた。若くて、いかにもチャラそうな人。
「どうしてこんな暗いところにいるの?」
「いや……人を探していて……」
こういう種類の人間はすごく苦手だ。周りは暗いし、人もいないし、正直言って怖い。さりげなく腕を引くが、強く掴まれているから外れなかった。
「こんな暗いところに人がいるわけないでしょ? 本当はこういうこと待ってた、とかぁ」
「わっ!」
ぐいっと腕を引かれたかと思ったら、次の瞬間には壁に押し付けられていた。後ろから抱きつく男の腕が腰に回る。興奮したような息が耳にかかって悪寒がする。
「やめっ……僕、男ですっ……」
「知ってる。男の味を知ってる男の子、でしょ?」
「……っ、そんなこと……んっ」
「ほらぁ」
変に間延びした声で男が言う。
すっと伸びてきた腕がワイシャツの上から乳首を摘んだのだ。すっかり敏感になってしまったせいで声が漏れた。
どうして男を知っているって気づかれたのだろう。そういう雰囲気みたいなものがあるのだろうか。だからこの人は近寄ってきて。
思考の沼に沈みそうになったところを慌てて引き返す。それから懸命に身をよじった。
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