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片影7
泣いても目が腫れない部類の人間でよかった。朝鏡を覗いたが、全く泣いたように見えない顔だった。
だから今日もいつも通り登校した。隣の席はやはり空だ。
今日でちょうど一週間。
よく考えてみれば、五月に戻っただけなのだ。いつも隣の席は空で、それに安心していた。僕は当たり前のようにいつも一人ぼっち。そんな少し前の"当たり前"に還っただけ。
それなのにすごく苦しい。隣の席を見るだけで、すごく辛い。
幸福を知ってしまえばもう戻れない。
よく聞くフレーズは全くその通りなのだ。
「渡来」
「……清水くん」
「はよ」
「おはよう」
清水くんが僕の席までやってくる。その笑顔は少し強張っている。
「昨日色々聞いて回ったんだけど……何もわかんなかった。ごめん」
「そっか。仕方ないよ。ありがとうね」
清水くんの顔は申し訳なさでいっぱいだけど、声はことさら明るく聞こえた。きっと僕の勘違いじゃない。
明るくいることでみんなに心配をかけないし、逆に励ます。そんなタイプの人だ、清水くんって。
だからこそ、人気者なのだと思う。清水くんに頼れば、その明るさが気分を押し上げてくれそうだから。
「捜索願いの方、どうだった?」
「それが、だめだったんだ……」
「なんで? 親が心配してないとか……ない、よな?」
「うん、それはないと思う……。でも聞き入れてくれなくて……」
「まじかよ……」
昨日のことを思い出して、また少し気分が沈む。久志さんの顔や様子が浮かんでは、消える。
結局のところ、久志さんは僕を信用してないということなの、かな。
「あの、さ……」
遠慮がちな清水くんの声に顔を上げる。
少し視線を逸らして、頬をぽりぽり掻いている。たまに僕を見て、また逸らして、口を開けて、閉じて。
どうしたのだろう。何を言い淀んでいるのだろうか。
「あの、一緒に行ってみない? その、間宮の親のところ。二人で行ったら何か変わるかも……しれない、し……」
しどろもどろで言う姿は、いつもみんなの中心で話す清水くんではないみたいだ。
一世一代の大告白、みたいな感じ。一生懸命に言葉を発した感じ。
僕の傷を抉りたくない。でも何か協力したい。迷った末に言ってみた。僕には、そう思えた。
「ありがとう、清水くん。でも大丈夫」
清水くんは本当に優しい。優しさが心に染みる。
勇気をくれる彼の笑顔に負けないよう、僕も笑顔を浮かべてみた。
「颯太の行方を知っているかもしれない人、あと一人、心当たりがあるんだ」
「……そっか。なら、よかった」
清水くんは一瞬目を伏せ、すぐ上げて、笑った。若々しくて眩しい笑顔。
「……じゃあ、また。俺も俺で探してみるし、何か手伝えることあったら言って。俺はいつでも渡来の味方だから」
「ありがとう」
軽く手を上げて清水くんは席に帰っていく。
こういう温かな存在が、小さくても希望に変わっていくのだと思う。少なくとも清水くんがいなければ、僕はもっと暗い気分だったろう。
それにさっきの言葉は気を遣った嘘ではない。本当に一人いる。その影響もあって光を失わないでいられる。
僕は放課後を待った。
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