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片影8
早く時間よ過ぎろと思いつつ、授業はちゃんと受けて、やっと放課後になった。
ショートが終わったら荷物はそのままにして、すぐさま教室を出る。
「渡来」
そんな僕の背に、声がかかる。清水くんではない。もっと低くて、人生経験を含んだような声。つまりは大人の声だ。
振り返るとそこには松田先生が立っている。わざわざ呼び止めたらしい。
「間宮の見舞い、行ったか?」
「……え?」
「いや、仲良さそうだから。間宮と渡来」
疑問符を思い切り顔に浮かべていたと思う。よくわからない。
松田先生は出席簿で肩を叩きながら、僕を見るともなしに見ている。だから僕の表情に気づいていない。
そもそも慎重に言葉を探しているような、そんな風に見えた。
「その、間宮が急に学校来たの……渡来のおかげ、なんだろ?」
「あぁ……はい」
「やっぱり。間宮は色々噂あったりしたけど本当は真面目な生徒だもんな。正直、心配で」
「そうですよね……」
そうか。松田先生は僕と颯太の仲が良いから、何か聞き出そうとしているんだ。
確かに生徒が行方不明だなんて心配に決まっている。でもわざわざこうやって行動するあたりいい先生だ。
そう納得しかけて、最初の言葉を思い出す。
見舞いと、言っていなかっただろうか。
「まあただ風邪こじらせてるだけっていうからすぐ来るだろうけど」
「あ……えっと」
謎の答えはすぐに松田先生がくれる。
久志さんは学校にどうやら風邪と言っているみたいだ。すぐ帰ってくると言っていたから、わざわざ言う必要もないということか。少なくとも表面上は。
「マスクすれば移らないだろうから、見舞い行ったらどうだ? というか見舞いもう行ったのか?」
「いえ……」
「なら、行ってこい。向こうだって迷惑なんて思わないだろうよ。な? そんで元気出せ」
「あ、はい……」
松田先生は、僕も心配しているのだろうか。口調からすればそうだ。
最近僕の様子が暗いから、先生は心配していて、それが仲のいい颯太がいないせいだと思っている。だけど風邪をもらうことや相手への迷惑の心配から僕が行けないと思っていて、それを後押ししていると。
やっと理解できた。松田先生は生徒をよく見て思いやるいい先生だ。だから僕のためにわざわざ。
「まあそのなんだ、ただの風邪なんだし、あまり気を落とすなよ」
ぽんっと僕の頭を出席簿で叩いて、松田先生は歩き去って行った。
その優しさが嬉しくて、苦しい。
違うんだよ、先生。颯太は風邪なんかじゃなくて、行方不明なんだ。それで僕は今、小さな手がかりから追っていて、それでも希望はまだ全然見えない。
僕は涙脆くなってしまったのだろうか。また溢れそうなそれを堪える。
波を押し戻してから改めて目的地へ向かった。
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