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見守るというカタチ1

○ ● ○ 意を決したようにどこかへ向かう渡来の背を、教室のドアの陰から見つめた。 崩れそうなのに、懸命に立ち続けている。痛々しくて健気。最近の渡来はそんな感じだ。 突然だが、俺、清水蓮は、渡来と間宮は似合いのカップルだと思っている。こんなこと言いたくないし、めちゃくちゃ悔しいけど。 渡来は基本的に人に対して完全に心を許すことが少ない性格みたいだ。でも間宮に対する時だけは安心したような表情を見せる。まるで花が綻ぶようにふわりと笑うんだ。 間宮も誰に対しても柔らかい態度を崩さないように見えるけど、渡来に対しては一気にその雰囲気が緩むというか、なんというか。愛しいという気持ちを溢れさせている。 まるで二人の周りに柔らかな繭が作られているみたいに見える。二人だけの空間。そんな感じ。 てな訳で俺は、二人はお似合いだと思う。 悔しいけれど、俺は深く入りこめない。渡来の中に居座ることはできない。友達に留まるしかない。 好きという気持ちはぶつかって跳ね返って、俺に戻ってくる。 渡来のことを最初は何とも思っていなかった。 静かな人間。関わることのない人間。俺とは対極にいる人間。 初めて話しかけた時もおどおどして寧ろ苛ついてしまったくらいだ。 だがクラスの件で渡来をちょこちょこ観察するようになって、その印象は変わった。基本的に渡来は間宮とずっと一緒にいる。 間宮の前でふわふわ笑う様子を、不覚にも、可愛いと思ってしまった。胸のあたりが熱くなって、渡来から目を離せない、いや、離したくなくなった。 そのうちクラスのこととか関係なく、渡来を見ることが増えて、認めざるを得なくなった。 これが好きだって。 だけど同時にそれは報われないものだと分かりきっていた。 渡来から話しかけてきた時、照れや悔しさでつい意地悪を言ってしまったりするくらいには、渡来の心に入り込める様子がない。間宮が真ん中にずっといる。 我ながら自分のことを阿保だと思う。 そんな人に恋するのも、わざわざ協力するのも。 間宮がいなくなってから渡来はどんどん落ち込んでいくようだった。笑顔なんかとんと見せることがない。 その悲痛な様子を見ていると、俺も辛かった。渡来をまた笑顔にしたい。そのためには。 間宮が帰ってきたら、また歯痒い思いをする。そんなことわかっているはずなのに、俺は助ける方を選んだ。辛そうな渡来を見ている方が嫌だった。 だから協力を申し出て、必死になって。 渡来は俺の気持ちにまるきり気づいていないから、純粋に俺を褒めたり、笑顔を向けたりする。 俺は優しいやつじゃない。これのおかげで話す機会ができるって、今は渡来が俺だけを見てるって、考えてしまうこともある。純粋な善意だけではない。 だから渡来の態度は、嬉しくて、痛い。 今朝、渡来は俺と笑顔で話していた。 俺が何も結果を残せなくても笑って、お礼を言って、提案をした時もまた笑って、お礼を言って。 見てるこっちが痛い。明らかに渡来は消耗している。どんどんすり減っているみたいだ。 それに話しているとまるで違うと言われているようだった。顔から声から全て、間宮を求めている。颯太、颯太と無意識に呼んでいる。そんな気がした。 自分から墓穴を掘って、傷つきに行って。俺を阿保と言わずになんと言えばいいのだろうか。 でも、きっとまた性懲りもなく話しかけてしまうのだと思う。 そりゃあ間宮と渡来を見て傷つかないことはない。 だけど今の渡来を見ていて自然と思った。俺は報われなくてもいい。渡来が救われるなら。 殊勝な恋だ。でもこういう好きの形もあるさ。 好きだから、好きな人の幸せを願う。今まで好きになった女に抱いたことのない想い。だからそれなりに本気なんだろう。 本気の恋が、絶対報われないとは、本当に運が悪い。 でもこれが俺の、恋。

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