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別離こそ2
そっと目を開ける。
目に入るのは白。白しかない。
薄気味悪い部屋だ。
この部屋は壁も椅子も机もベッドもトイレも、全て白だ。出てくる食事も白にしてあり、服も白いものを着せられた。
時計やドアはなく、四方塞がれて逃げ出すことは不可能。
これが九条家の折檻部屋。
幼い頃に一回だけ来たことがある。白だけしかないと気が狂いそうで、あまりに怖くて、ずっと泣いていた。
でも今はやけに冷静だ。一度知ってしまえば恐怖などなくなるということか、もしくは。
おそらくここに来てから一週間経った。
一週間前、いきなり九条の者が家に押しかけてきた。久志さんはなんやかや抵抗していたが、もうわかっていたことだ。
それに俺には逆らうことなどできはしなかった。だから大人しく連れられて、この部屋に押し込まれた。
あっという間だった。もう馬鹿らしくなるほどに。
ふぅと息を一つ吐いて体を起こす。
壁に面した机の上には三食分の食事が乗っていた。冷めているし、色が白一色のせいもあるのか、味気ないものだ。
俺が寝ている隙に毎日運ばれてくるらしい。そんなことをせずとも逃げたりしないのに。
ベッドから降り、机の前に行く。
机に乗るのはもう一つ。朝食を取らずにそれを手に取った。
恐怖を感じない理由にこれがあるかもしれない。毎日煽るように置かれているそれ。
これに苛立ちを感じているから、恐怖は塗りつぶされているような気がする。
それ、というのは写真だ。亜樹の盗撮写真。今日は家から出てくるところだ。
他にも登校風景や学校内での様子、今日みたいに家付近のもあった。つまりはいつでも危害を加えられる状態にある。
だがもとより俺は逃げるつもりなんてない。亜樹を人質に取る事くらい想定済みだ。
もうこんな馬鹿らしいやり取り、やめよう。
「父さん、見ていますよね」
部屋全体に届く声を出す。するとどこからかプツッとスピーカーの繋がる音がした。
「久しぶりだな、颯太」
「久しぶりですね。本当に」
実に数年ぶりの声。俺の父、九条俊憲。九条グループの現トップ。
全く変わっていない。声の調子も喋り方も、何もかも。
「いつまで続ける気ですか。ここに入れても俺の気は狂わないし、逃げるつもりもありません」
「ほう、一人称を変えたな。それも奴の影響か」
「久志さんは関係ない。俺の意志です」
どこか人を見下すような、弄んでいるような声音。だけど厳格で、人が逆らうことを許さない。
幼い頃はそれがとにかく怖かった。
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