150 / 961
別離こそ4
○ ● ○
「あいつは……颯太は、九条家の一人息子だ」
会長の一言に思考が止まる。
言葉が、理解できない。あまりの衝撃に息が詰まる。
「中二の頃だったか。あいつが逃げ出して、僕は代替品として九条の養子になった。だが九条の者は手放すのが惜しいと感じたんだろうな。颯太を連れ戻すことにしたようだ」
息を吐き出して、吸って。落ち着こうとする。
それでもまだ理解できなくて、脳が拒絶して。でも僕の体はふらりと立ち上がり、会長の前に行った。
「…………か」
「なんだ」
「……家に行けば、会え、ますか」
まだよくわからないけど、颯太の居場所はわかった。なら、会う。
僕の頭には一種使命のような感情が浮かんだ。
「教えてください。九条の家を」
「……いいのか。何があるかわからないぞ」
「いいです。颯太に会えるなら、それで」
逡巡を見せた会長だが、諦めたように頷いた。そして九条の家の住所を教えてくれる。
ここからさほど離れていない。八駅分くらい。十分行ける。
僕は挨拶もそこそこに生徒会室を飛び出した。
リュックなんか持たず、学校を飛び出して駅に向かった。今までにないくらい速く走ったと思う。改札を抜け、ちょうど来た電車に転げるように乗った。
周りの人が驚いて僕を見る。それくらい周りが見えるほどには落ち着いた。普段僕ならその視線を気にするところだけど、今は気にならない。
息を整えながら窓の外を見る。景色が次々流れていく。でも、遅い。凄く焦れったい。
ただ待つしかない僕の脳には、これまでのことが浮かんできた。
颯太の意味深な言葉も、時々見せる遠い視線も。会長の苛立つ理由も、全部、繋がる。颯太が九条の長男だと思えば、全て。
あの言動からこんなことを察せるはずはない。でもなぜ気づけなかったんだと後悔は止まらない。
遠慮などせずに聞いていれば、今の状況はなかったかもしれないのに。
ぎゅっと目を瞑って、開ける。後悔はあと。今は颯太に会うことだけを考えろ。
その時ちょうど降りる駅に着いた。
駅を駆け抜け、貰った住所を頼りに走る。静かな住宅街に僕の息の音が響く。
そうして走り続ければ、自然と目につく家が見えた。大きくていかにもお金持ちの家。もちろん門は閉まっている。
一か八かで押してみると、すんなり開いた。あたかも入ってこいと言っているような。
でもそんなことに構ってはいられない。僕は門を潜って前庭を駆け抜けた。
玄関であろう大きな扉を思いきり開ける。大きな音と共に中に入った。
目の前には幅が横に長い階段。それを辿っていくと踊り場。
そしてそこには、
「ーー颯太!!」
愛しい人がいた。
ともだちにシェアしよう!