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傷つくほどに1

○ ● ○ …………ここは、どこだろう。 ぐるりと視線を回す。 見覚えのある布団、机、壁、天井。 ああ、そうだ、ここは僕の部屋だ。 僕……僕、渡来亜樹の。 なんでここにいるのか。 確か会長に颯太の居場所を聞いて、九条の家に行った。それから、そう、拒絶、された。 颯太は、なんて言ってたっけ。 別れようって言った。 僕に構う暇はないって言った。 僕が、邪魔だって、言った。 見たこともないような冷たい視線を向けて。僕の声に構わず去って行って。 僕は、あまりにもショックで、その場にへたり込んだんだ。そうしていたら警備員のような人たちに門の外へ連れ出された。 そこから、どうしたんだろう。歩いて帰ったのか、電車を使ったのか。 今いるのは家だから、どうにか帰ったんだろう。 ……颯太はどうして僕と付き合ったんだろうな。 どうせ捨てるなら、どうして一緒にいたのだろう。 昔の僕の予想が当たっていて、颯太は僕で遊んでいたんだろうか。僕は颯太にとってただの暇つぶしの道具だったのかもしれない。 そんなこと僕は颯太ではないから、わからない。でも今の僕には、関係ない。 だって、拒絶されたのは、変わらない。 颯太に、僕は、いらない。だから、離れる。 合理的なことだ。僕は颯太を困らせたくない。好きな人のためになるなら、離れなきゃ。 でも、どうしよう。颯太がいない世界は、僕には、もう、耐えられそうにない。 颯太に出会う前の僕は、どうやって、生きていたんだっけ。 どう起きていたか。どう歩いたか。どう話したか。どう食べたか。どう、過ごしたか。 記憶が遠くて、何も思い出せない。 何も、わからない。 僕は今、何をしているかさえ、曖昧だ。 だけど、それで、いいか。 このまま、誰にも知られず、ひっそりと、消えよう。 消えられるのかな。 消えたい。 消えられるか、じゃない。 消えたい。 消えて、消えて、消えて…… 「……いっ! ………らい!」 ……何か、聞こえる。 体が、揺れているような、気がする。 「……たらい! 渡来!!」 「しみ……ず……くん……」 目の前にはなぜか、清水くんが、いた。

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