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傷つくほどに2

「大丈夫か? 渡来」 どうして清水くんがいるのか。わからなくてじっと彼を見つめてみる。幻ではないと思う。 だって清水くんが僕の両肩を掴んでいる。その感触を感じているから。 「昨日はリュック置いたまま帰っちゃうし、今日も休んだから心配で、先生に住所聞いて来た。玄関の鍵開けたままだったぞ。どうしたんだよ」 清水くんは僕に問いかける。 どうした。今までどうしていたか。何が僕に起きたのか。 ゆっくり、ゆっくり、考えて。 ゆっくり、ゆっくり、思い出す。 「……そうた……に、あった……」 「間宮に? じゃあ見つかったってことか!」 清水くんの顔が輝く。瞳は煌めき、白い歯を見せ。まさに満面の笑みだ。 その表情が、痛い。 「…………って、いわれ、た」 「ん?」 「わかれようって……いわれた……」 「……は?」 無意識に清水くんの手の力が強まる。指が食い込んで少し痛い。 胸に比べたら、全然平気だけれど。 「ぼくは、いらないって……じゃまだって……いわれ、た……」 「何、言ってるんだよ。そんなこと……」 「ね、しみず、くん……いたい……」 「渡来……」 清水くんの顔が見えなくなっていく。颯太の顔がが、あの冷たい目が、浮かんでくる。 あの目を見たら、心が、冷えたんだ。 颯太の言葉で、心が、崩れたんだ。 ガラ、ガラ、って。 どうして、捨てられたの。 何が、いけなかったの。 ねえ、颯太。そうた。 「いたい、よ……くるしい……、むね、が……」 「なあ、渡来っ……」 目の前の何かを掴む。手にぎゅっと力を入れる。 「いたい……くるしい……くるし、い……」 「渡来! 俺じゃっ……」 大きな声が聞こえて、視界が変わる。 清水くんだ。清水くんがいる。 そうだ、今、僕の家に、清水くんがいるんだった。 清水くんは何か言いかけた口をハッとして噤んだ。 「清水くん……?」 何を言いかけたのだろう。俺じゃ、なんだろう。首を傾けると、清水くんは、笑った。 すごく、すごく、辛そうに。 なんだか今にも泣いてしまいそう。どうして、清水くんが、泣きそうなんだろう。 「渡来は、馬鹿だなぁ」 「……え?」 清水くんに体を引き寄せられる。背中に手を回されて、抱きしめられて。 咄嗟に離れようとした僕を更に清水くんはきつく抱きしめる。もう咎める相手もいないし、気力もないし、諦めて僕は大人しくする。 「間宮が好きすぎて、何も見えてないんじゃないの? あの間宮が、渡来のこと捨てるわけないじゃん」 「そんなの、わかんな……」 「わかる。だって渡来を守るために悪役演じきるやつだぜ? どうせ渡来への態度も演技なんだって。それも渡来を守るためとかさ」 清水くんの声はちょっと震えている。でもとても温かくて、するり、するりと胸に落ちてくる。 「でも……」 「大丈夫だって。お前らは別れない。俺は、ずっと、見てきたんだから」 「しみず、くん……」 ポンポンと一定のリズムで清水くんは背中を叩く。心地よい男声は耳を通り抜け、温もりは僕を包みこむ。 信じても、いいのだろうか。 ううん、信じたい。 まだ、可能性が、あるのなら。 「大丈夫。大丈夫、渡来……」 「しみず、ぐ、ん……」 視界がぼやけて、鼻がツンとして、あっという間に涙が零れる。きつくきつく抱きしめてくれる体に身を委ねて、僕はボロボロ涙を溢れさせた。 みっともないくらい声を上げて、ずっと溜まっていた毒素を抜くかのように。 たぶん、颯太、颯太って何度も呼んだ。その度に大丈夫だよ、亜樹って声が返ってきた。 その声に安心して、僕はずっと泣き続けたんだ。

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