155 / 961
傷つくほどに3
「ははっ。渡来、目も鼻も真っ赤」
「ごめんね、みっともないところ……」
「いいや。可愛かったよ」
「もう……からかわないで」
僕の返答に清水くんは否定も肯定もしないで、曖昧な笑みを返してきた。
かなりの時間、清水くんの胸の中で泣いていたと思う。
その中で不安や痛みが少しずつなだめられていって、考え方も冷静になった。清水くんの言葉はある程度の説得力を持っていると思えた。
それに泣いている間に、それでいいのかって声が内から聞こえた。拒絶されたくらいで颯太との時間を失ってもいいのかって。本心を聞かないまま諦めていいのかって。
そんなの嫌だっていうのが僕の本音。
颯太と一緒がいい。何より自分のために。
だから僕は進む。一度拒絶されたのだ。もう何も怖いものはない。
「それで……何があったか、聞いてもいい?」
「うん。実はねーー……」
僕は昨日起きたことを洗いざらい話した。話すうちに清水くんの顔には驚きの色が増えていって、失礼だけど少し面白いなって思ってしまった。
面白いって感じられるくらい、回復したみたい。
「信じられないな……まさか間宮が、あの九条の……」
「僕も驚いたよ」
「だよな。だよなぁ……」
清水くんは事実をかみ砕こうと、しきりに頷く。それからハァーッと息を吐いて天を仰いだ。
その状態でしばらく動かない。
次に顔が僕を向いた時は、すっかり事実を受け入れたようだった。真剣な視線で僕を見る。
「それで、渡来はこれからどうすんの?」
「僕は……颯太に本当のことを聞きたい。清水くんの言うように、何か理由があって九条に戻ったなら、助けたい。戻りたくて、戻ったなら、その思いを、直接聞きたい」
「……そうか。ならそのためにまず間宮のことを知らなきゃな」
「うん。過去も全て知った上で行かないと、今の颯太には届かないよね」
「おう」
僕が話していると、清水くんは淋しそうに、でもどこか眩しそうに笑う。その瞳には優しさや慈愛のようなものが見えて、しみじみと清水くんのありがたさを感じた。
清水くんがいなかったら、僕はどうなっていたかわからない。
「それで、俺の手伝えることはないんだよな」
「うん。もう十分助けてもらったから」
「……そっか」
清水くんはふっと視線を逸らして、でも何か惜しむようにすぐ視線を戻した。
僕はその目を見る。
「……あの、でも、また今みたいに、どうしようもなくなったら、助けてほしい、かな……」
ちょっと恥ずかしくて上目遣いになってしまう。
清水くんはその綺麗な目を大きく見開いて、僕を見て。それから上を仰いで掌で目を覆う。
唇は微かに震えている。
「おう! もちろん」
だけどまた僕に顔を向けて、元気に返事してくれた。それも、すごく嬉しそうに、幸せそうに。
その笑顔を見て、僕の心もほっこりした。
「じゃあ、俺帰るな。また明日……学校で」
「うん。ばいばい。ありがとう」
「おう。じゃな」
笑顔で手を振りながら清水くんは僕の部屋を出た。少し経って、玄関の閉まる音が聞こえた。
ともだちにシェアしよう!