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傷つくほどに4
○ ● ○
清水くんが帰ったあと、僕はとりあえず早めの夕食を食べた。昨日から何も食べていなかったのだ。
そのあとは洗濯をしたり、お風呂に入ったり、掃除をしたり、昨日やらなかったことを片付けた。
そして夜は一回も起きることなく寝続けた。
朝になって、起きる。頭はスッキリしている。
本当は焦るべき状況なのかもしれない。だけど僕はなぜか落ちついていられた。
おそらく何も希望がないわけではないし、颯太に危害が加わる心配もないからだと思う。
久志さんのところへは土曜日、つまり明日行こうと思っているから、学校へ行く準備をする。
リュックは学校に置いたまま。だけどサブバッグを水曜日はたまたま持っていっていなかったから、手ぶらで登校という恥ずかしい状態にはならなかった。
教室のドアを開けて、中に入る。クラスの人たちが挨拶してくれたり、体調を案ずる言葉をかけてくれたりした。
それに返しながら空のままの席を過ぎて、自分の席に座る。引っかかったままのリュックの中身を確認する。
「渡来」
「あ、清水くん」
「おはよ」
「おはよう」
清水くんは普段通りの笑顔で挨拶をくれる。
「そういや昨日ごめんな」
「え? 何が?」
「せっかく家行ったのにリュック持っていってやれなくて。焦ってそんなこと抜け落ちてた」
「そんなっ……大丈夫だよ」
清水くんは優しいなって本当に何度も思う。
僕にたくさん協力してくれて、わざわざ心配して家にも来てくれる。
こういう素敵な人だから、色々な人が周りに集まるんだろう。
「それで……聞きに行ったの?」
清水くんはちらりと周りに目を向けてから声をひそめる。
「ううん。明日行こうと思って」
「そうなのか。その、教えてくれる人って、捜索願いの……」
「うん」
「……大丈夫なの、か?」
僕に久志さんが協力してくれるかってことだろう。確かに捜索願いを断ったことしか清水くんは知らないから、無理もない。
「大丈夫。ちゃんと真正面から向き合えば、話してくれると思う」
「ならよかった。まあ何かあればいつでも協力するからな」
「うん。ありがとう」
清水くんはニカッと笑って席に戻った。
授業を聞いて、お弁当を食べ、わからないところは質問しに行って。普通に一日を過ごした。
放課後になる。
今日は勉強せずに帰ろうと、リュックとサブバッグを持って教室を出た。
「渡来」
そうするといつかのようにまた背後から声がかかる。
その声の正体は、松田先生。
「はい」
「昨日は大丈夫だったのか? 何も連絡ないから心配したぞ」
「すみません。電話し忘れちゃって。ただの風邪だったんですけど……」
「次からはちゃんと連絡するんだぞ」
「はい」
いつものように出席簿で肩を叩き、歯を見せる。
これで会話は終わりかと思ったら、なぜか松田先生は僕をじっと見つめる。何かを探るような視線に少しびくつく。
「……な、何か?」
「いや、うん。光が戻った。強くなったみたいだな」
「え? どういう……わっ」
また頭を出席簿ではたかれて、松田先生は去って行く。その背中は少し猫背で、でもなぜかとても大きく見えた。
よくわからないけど、僕は変わったということだろうか。
首を捻りつつ僕は学校を出た。
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