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傷つくほどに5
外は燦々と日が照っている。手で日陰を作って空を見上げた。
太陽が自信満々に見返してくる。その熱さに負けたのか雲は一つもなく、抜けるような青空だった。
じわりと汗がにじむ。この間まで夏の香り程度だったのに、あっという間にやってくるものだ。
ふと横を見ると公園があった。
少し近道になるからよく帰り道に通る。木々のおかげで日陰も多いし、通ることにしよう。
柵を避け、土を踏む。
土の感触も、太陽の光も、木々のざわめきも、すごく久しぶりな気がする。実際、自然を感じる余裕なんてなかった。
のんびりその中を歩いていく。
「……ん?」
足に何か当たる。下を見るとサッカーボールだった。
「すいませーん!」
男の子数人の塊から一人駆けてくる。
ワイシャツを着ているし、見た目は少し幼いから中学生だろうか。部活が休みだったのか、それとも引退済みで息抜きにやっているのか。
とにかくこのボールはあの男の子たちのものだろう。
そう思ってボールを拾い上げ、男の子の方へ向かおうとしたら、
「へっ……?」
ドドドッて音が似合いそうなほどの勢いで、後ろから小さな女の子が走ってくる。きっとこっちの子は小学生だ。
瞬く間に男の子を追い抜かし、僕の目の前に来た。
「ありがとう!」
「あっ」
白いワンピースが可愛い女の子だ。勝ち気な瞳を細め、にっこり笑顔で僕からボールを受け取る。
……いや、奪う?
「おい、杏!」
そしてまた速いスピードで引き返していった。男の子はちょうど僕のところへついた。つまり入れ違いだ。
男の子は捕まえようと手を伸ばしたが、もちろん届かず。女の子は男の子の塊の中へ戻っていった。笑って迎えられているから、一緒に遊んでいるみたい。
「すみません、うちの妹が」
「あ、ううん。全然平気だよ」
「ボールありがとうございました!」
「はーい」
ぺこっと頭を下げた男の子に手を振る。
見るからに明るい好青年って感じ。どことなく雰囲気が清水くんに似てる。
男の子たちと女の子が再び遊び始める。仲良さげにサッカーをやっている。
太陽の光が彼らを照らして、微笑ましく眩しい光景だった。
長閑で心地よい午後。
だけど穏やかなだけの、午後だ。
犬の散歩やランニング、砂場で遊んだり、ブランコに乗ったり、様々なことをしている人たちの間を抜けて、公園を出た。
塀と塀の間を歩き続け、数分歩けば、すぐに家だ。ちゃんと玄関から入る。
部屋に行って、リュックやバッグを置く。小さく息を吐いて、その場に座った。
机の上の黄色のリスと目が合う。
膝歩きでそこまで行って、両手にリスを乗せた。
「……待っててね」
そしてその頭に、キスを落とした。
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