158 / 961

傷つくほどに5

外は燦々と日が照っている。手で日陰を作って空を見上げた。 太陽が自信満々に見返してくる。その熱さに負けたのか雲は一つもなく、抜けるような青空だった。 じわりと汗がにじむ。この間まで夏の香り程度だったのに、あっという間にやってくるものだ。 ふと横を見ると公園があった。 少し近道になるからよく帰り道に通る。木々のおかげで日陰も多いし、通ることにしよう。 柵を避け、土を踏む。 土の感触も、太陽の光も、木々のざわめきも、すごく久しぶりな気がする。実際、自然を感じる余裕なんてなかった。 のんびりその中を歩いていく。 「……ん?」 足に何か当たる。下を見るとサッカーボールだった。 「すいませーん!」 男の子数人の塊から一人駆けてくる。 ワイシャツを着ているし、見た目は少し幼いから中学生だろうか。部活が休みだったのか、それとも引退済みで息抜きにやっているのか。 とにかくこのボールはあの男の子たちのものだろう。 そう思ってボールを拾い上げ、男の子の方へ向かおうとしたら、 「へっ……?」 ドドドッて音が似合いそうなほどの勢いで、後ろから小さな女の子が走ってくる。きっとこっちの子は小学生だ。 瞬く間に男の子を追い抜かし、僕の目の前に来た。 「ありがとう!」 「あっ」 白いワンピースが可愛い女の子だ。勝ち気な瞳を細め、にっこり笑顔で僕からボールを受け取る。 ……いや、奪う? 「おい、杏!」 そしてまた速いスピードで引き返していった。男の子はちょうど僕のところへついた。つまり入れ違いだ。 男の子は捕まえようと手を伸ばしたが、もちろん届かず。女の子は男の子の塊の中へ戻っていった。笑って迎えられているから、一緒に遊んでいるみたい。 「すみません、うちの妹が」 「あ、ううん。全然平気だよ」 「ボールありがとうございました!」 「はーい」 ぺこっと頭を下げた男の子に手を振る。 見るからに明るい好青年って感じ。どことなく雰囲気が清水くんに似てる。 男の子たちと女の子が再び遊び始める。仲良さげにサッカーをやっている。 太陽の光が彼らを照らして、微笑ましく眩しい光景だった。 長閑で心地よい午後。 だけど穏やかなだけの、午後だ。 犬の散歩やランニング、砂場で遊んだり、ブランコに乗ったり、様々なことをしている人たちの間を抜けて、公園を出た。 塀と塀の間を歩き続け、数分歩けば、すぐに家だ。ちゃんと玄関から入る。 部屋に行って、リュックやバッグを置く。小さく息を吐いて、その場に座った。 机の上の黄色のリスと目が合う。 膝歩きでそこまで行って、両手にリスを乗せた。 「……待っててね」 そしてその頭に、キスを落とした。

ともだちにシェアしよう!