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傷つくほどに8
久志さんは僕の手を取って立ち上がらせ、ソファに座らせた。それからキッチンへ行ってしまう。
戻ってきた久志さんの手にはコップが二つ握られている。一つは麦茶、もう一つは白い飲み物。カルピス、だろうか。
久志さんは僕にカルピスを渡す。氷が澄んだ音を立てる。
なぜわざわざ僕だけカルピスなのだろう。
「亜樹ちゃんにいつか白いもの飲んで欲しかったんだわ」
不思議に思う僕に久志さんはニヤニヤ笑いを向けてくる。こういう時は大抵下品な理由だ。
白いもの。白いものを飲む……? 白いもの、下品、この二つで連想できるのは、つまり…………
「なっ……」
「こういうとこは変わってねぇのな」
ぼっと顔が熱くなる。久志さんは依然笑っている。
「も、もうっ……」
僕が慌ててローテーブルにカルピスを置くと、久志さんはケラケラ笑った。
「まあ、飲みもんでも飲んで、ゆっくり話そうぜ。短い話じゃあねぇからな」
そう言って久志さんもソファにどっかり座る。
今のやりとりでピンと張りつめていた空気が壊れた。やっぱりいつもの久志さんだ。
「さて、じゃあまずはあいつと出会ったとこか。あれは五年前の冬、颯太が中ニの頃だったか……」
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