163 / 961

傷つくほどに10

「んじゃ、颯太。何か嫌いなもんある?」 「……え?」 「食べ物のことな。腹減ってるだろ? 何か作ってやるよ」 颯太はおれのことをじっと見つめる。 その顔は今にも泣きそうだ。 小さな背に何かをいっぱい背負って、耐えきれず崩れた少年。何もかも捨てて現実から逃げ出した。そんなところだろうか。 「何も、聞かないんですか」 震える声で言う颯太。自分で言って返事が怖くなったのか、すぐに俯く。その姿にふっと笑みが浮かんだ。 「飯作るのに他に聞くことなんてねぇだろ」 颯太は固まって何も言わない。 おれの言葉を噛み砕いているのだろう。信用できるのか、どうか。 甘い言葉を吐いて騙す大人など、社会にたくさんいる。颯太は幼ながらに十分理解していそうだ。 ならおれについてきたことを後悔してもおかしくなさそうだ。いや、逆に何をも諦めたなら、好都合なのかもしれない。 とにかくおれは颯太の返事を待つ。颯太はまだ悩んでいる。 だがそれよりも先に腹の虫が音を上げた。 「あっ……」 「ははっ。そいで嫌いなものは?」 「……ないです」 「じゃあ何か作るから、そっちのテーブルで座って待ってな」 頬を赤くしてさらに俯いた颯太だが、小さな「はい」という返事は聞こえた。 それにまた顔を綻ばせ、キッチンに入る。冷蔵庫を覗いて食材を確認する。簡単にできるものの定番、チャーハン。それに決めた。 刻んで、混ぜて、炒めるだけのチャーハンは十分と経たずにできあがった。皿に盛り付けて颯太に持っていく。 「すみません。ありがとうございます……」 ちゃんとダイニングテーブルに移動していた颯太の前にチャーハンを置く。ぺこっと頭を下げたあと、いただきますと言って食べ始めた。 一口含んで目を見開いたあと、勢いよくかきこみだす。瞳がキラキラ光る。 自分の作った飯を喜んで食べてもらえるのは、いつどんな時も嬉しいものだ。 「なぁ、颯太さ、これから行くとこあんの?」 頬杖ついて颯太を眺めながら聞いてみる。 颯太はチャーハンを掬う手を止めた。口の中のものを飲み込んで、それでも黙ったまま。 我ながら残酷な質問だ。 行くところなどあるはずがない。だが早熟な子供の口がそれを言えるはずもない。 「ここで暮らすか?」 そして、本当に、らしくない。 極力、人と関わらないように生きてきたはずなのに。 まあでも、もうここまで来たのだから行けるところまで行ってみればいいか。 颯太はおれの言葉に顔を上げる。 「一人暮らしもちょうど飽きてきたし、部屋も一つ余ってるからよ。まあ寒い中に戻りてぇなら別だけど」 綺麗な瞳はさらに潤み、口は何か言いたげに開閉する。 「どうする? はい、か、いいえ、か」 その瞳をじっと見て、笑う。颯太の口は震えながら、声を出す。 「……はい」 とうとうその瞳から一筋涙が垂れた。

ともだちにシェアしよう!