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傷つくほどに10
「んじゃ、颯太。何か嫌いなもんある?」
「……え?」
「食べ物のことな。腹減ってるだろ? 何か作ってやるよ」
颯太はおれのことをじっと見つめる。
その顔は今にも泣きそうだ。
小さな背に何かをいっぱい背負って、耐えきれず崩れた少年。何もかも捨てて現実から逃げ出した。そんなところだろうか。
「何も、聞かないんですか」
震える声で言う颯太。自分で言って返事が怖くなったのか、すぐに俯く。その姿にふっと笑みが浮かんだ。
「飯作るのに他に聞くことなんてねぇだろ」
颯太は固まって何も言わない。
おれの言葉を噛み砕いているのだろう。信用できるのか、どうか。
甘い言葉を吐いて騙す大人など、社会にたくさんいる。颯太は幼ながらに十分理解していそうだ。
ならおれについてきたことを後悔してもおかしくなさそうだ。いや、逆に何をも諦めたなら、好都合なのかもしれない。
とにかくおれは颯太の返事を待つ。颯太はまだ悩んでいる。
だがそれよりも先に腹の虫が音を上げた。
「あっ……」
「ははっ。そいで嫌いなものは?」
「……ないです」
「じゃあ何か作るから、そっちのテーブルで座って待ってな」
頬を赤くしてさらに俯いた颯太だが、小さな「はい」という返事は聞こえた。
それにまた顔を綻ばせ、キッチンに入る。冷蔵庫を覗いて食材を確認する。簡単にできるものの定番、チャーハン。それに決めた。
刻んで、混ぜて、炒めるだけのチャーハンは十分と経たずにできあがった。皿に盛り付けて颯太に持っていく。
「すみません。ありがとうございます……」
ちゃんとダイニングテーブルに移動していた颯太の前にチャーハンを置く。ぺこっと頭を下げたあと、いただきますと言って食べ始めた。
一口含んで目を見開いたあと、勢いよくかきこみだす。瞳がキラキラ光る。
自分の作った飯を喜んで食べてもらえるのは、いつどんな時も嬉しいものだ。
「なぁ、颯太さ、これから行くとこあんの?」
頬杖ついて颯太を眺めながら聞いてみる。
颯太はチャーハンを掬う手を止めた。口の中のものを飲み込んで、それでも黙ったまま。
我ながら残酷な質問だ。
行くところなどあるはずがない。だが早熟な子供の口がそれを言えるはずもない。
「ここで暮らすか?」
そして、本当に、らしくない。
極力、人と関わらないように生きてきたはずなのに。
まあでも、もうここまで来たのだから行けるところまで行ってみればいいか。
颯太はおれの言葉に顔を上げる。
「一人暮らしもちょうど飽きてきたし、部屋も一つ余ってるからよ。まあ寒い中に戻りてぇなら別だけど」
綺麗な瞳はさらに潤み、口は何か言いたげに開閉する。
「どうする? はい、か、いいえ、か」
その瞳をじっと見て、笑う。颯太の口は震えながら、声を出す。
「……はい」
とうとうその瞳から一筋涙が垂れた。
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