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傷つくほどに11
久志さんはそこで一回話を切って麦茶を飲む。それを見て初めて僕も喉が渇いていることに気づいて、カルピスを手に取った。
今の話を聞いて、颯太の細かい気配りはきっと久志さんに似たんだろうと思う。感慨深い。
久志さんは麦茶を置いて、また喋り始めた。
「そんなんで一緒に暮らし始めたわけよ。徐々に颯太は心を開いてくれて……まあ、素性は依然として知らないままだったけど。とりあえず平穏に暮らしてたんだ。だけどある日、確か颯太が中三の頃だったか……」
久志さんは思い出すように天を仰ぐ。
「九条の者が接触してきた」
「……っ」
体を衝撃が駆け抜ける。
だが考えてみればなんら不思議なことはないのだ。颯太の素性を事前に知らなければ、あんな態度を取れるはずがない。
「颯太は九条の子だって言われてそりゃあ驚いたわ。何の因果だよって。そいで大金渡されたからなんだと思ったら、颯太の生活費だって言われてまた驚いた」
その時のことを思い出したのか口元に笑みがのぼる。しかし長くは続かなかった。
「次からは口座に振り込むって言われて、それから高校に行かせろと言ってきた。今亜樹ちゃんが通ってるとこな。だからおれは何のつもりだって聞いたんだ」
僕は密かに膝の上の手を握る。
嫌な予感しかないけれど、僕は久志さんから目をそらさなかった。
「その答えは、いつか連れ戻しに来るかもしれないし、来ないかもしれない。そのための保険だってよ」
「それって一体……」
「つまり養子の、その……」
「九条柊生徒会長です」
「その柊がどれほどの力量か試してたんじゃねぇか? 使えるならそれでいいし、もしだめなら変えがきく」
「そんな……」
なら会長は試されるためだけに養子になったということで。しかも僕に真実を話してくれた時の様子では、それをわかっていたようだ。
そんな仕打ち、酷すぎる。
「断ったとしても引かねぇし、おれは請け負った。颯太の生活を壊したくなかったから本人には黙っといたんだがな。高校の方は何とか説き伏せて、颯太は家で受験勉強をしたのち、合格した。それからしばらく順調だったんだ」
久志さんは膝の上で組んだ指を見つめる。僕は久志さんの横顔を見つめる。
「だけど颯太が高一の頃、その最後の方だったな……また事件が起きたんだ…………」
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