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傷つくほどに13
「……それから夜出歩くことが増えて、学校も行かなくなった。ここから先は亜樹ちゃんのが詳しいんじゃねぇか?」
そう言って久志さんは話を閉じる。僕はと言えばあまりの情報に呆けて、ただカルピスを持ったまま座るだけだ。
颯太がそんな悲痛な覚悟をしていたなんて思いもよらなかったし、久志さんがまさか本当に颯太の伯父だとも思っていなかった。
「久志さんも九条にいるのが辛かったんですね……」
「まあおれの場合、重圧に耐えかねたっつーか、自ら進んでだけどな」
「そうなんですか」
「自由に生きてみたくて、高三の春休み、それなりの金や道具を持って出て行った。住み込みで働いたりとかしてなんとかここまで来たって感じだな」
「大変だったんですね……」
「褒められた生き方じゃねぇし、そりゃ辛いこともあったけどよ、おれは今の生き方が一番幸せだわ、きっと」
久志さんは屈託無く笑う。
僕も今の方が久志さんに合っていると思う。誰かの上に立って、厳格に会社を経営していくよりも。
時に残酷になって、誰かを蹴落とさなければならない立場よりも。
「まあだからと言って颯太に同じ道を歩ませたかったわけじゃねぇが……もう心配ねぇな」
久志さんは僕を見る。その瞳には穏やかな愛情が湛えられている。
なんだか少し照れくさい。
「颯太が初めて亜樹ちゃんを連れて来て『恋人』って言い切った時は嬉しかったよ。あんな冷たい目をしてたやつがって。あん時のがよっぽど立派で頼もしく見えたもんよ……」
今ならわかる。久志さんが颯太に『本当にいいんだな』って問うたわけも、僕に『颯太のこと、頼むな』って言ってきたのも。
久志さんも颯太もたくさん悩んで。
久志さんはそれでも颯太と暮らすことを選んだ。颯太はそれでも僕を選んでくれた。
だったら尚更、前のような時間を取り戻したい。
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