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自由に向かって2

それから普通に授業を受けて、放課後また僕の目の前には生徒会室があった。 以前までの僕は、まさか自らここに来ようとは思いもしなかっただろう。 ノックをして、挨拶をして、中に入る。九条会長は自分の席に座っている。それ以外にも生徒会役員の人が数人いた。 「九条会長、話したいことが」 ソファの後ろを通り、会長の前に立つ。会長は目を通していた紙から目を上げ、僕を見る。それから背後に目を向けた。 「すまないが席を外してくれないか」 役員の人は返事をしながら部屋を出て行ってくれた。 「それで、用件は?」 「颯太の本心や過去を教えてもらったんです。だから颯太を助けに行きたいと思います。そこで会長に協力を頼みに来ました」 会長は前と変わらない鋭い視線を向けてくる。 その姿には弱さといったものはもう見えない。少し日が経ったから、もう自分を取り戻したんだろうか。そうだとしたらすごい人だ。 「裏口や警備の少ない時間帯を教えてくれるだけでもいいんです。お願い、できますか」 「九条から転落した者に言う言葉がそれか」 「わかっています」 もし颯太を助けだせば、また会長が跡取りとなるかもしれない。そうやって物のように扱われることを助長しているのは、僕。 最低だとわかっている。 「でも、それでも、颯太を助けたいんです。お願いします」 「その見返りにセックスをさせろと言ったら、どうする」 「構いません。それで颯太を助けられるなら」 「ふっ……」 会長が目を伏せ、笑いを零す。いつもの貼り付けたような笑みじゃなく、自然なものだった。 そのような表情を見るのは初めてだ。驚いてしまう。 「馬鹿だな。僕も、お前も……」 表情に気を取られている間に、会長が何か呟く。小さくて僕の耳には届かなかった。聞き返そうとしたら、その前に会長が口を開く。 「いいだろう。無償で協力してやる」 「……! ありがとうございます!」 「僕に懇意にしていたメイドが一人いた。その者に協力を仰いでみる」 会長は手元の卓上カレンダーを見る。指が日付を追う。 「確か二十六、二十七、二十八日と颯太の両親は取引先に出かけるはずだ。重要なものらしいから僕の耳にまで届いた。平日だが夏休みゆえ行動はできよう。決行は二十六日、夜十時だ。九条の家の最寄り駅に来い」 「はい」 テキパキと会長が全てを決める。 指示は早く、的確で、企業の頂点に立つには申し分ないように見える。それなのになぜ颯太のお父さんは颯太に固執するのだろう。 ……今、悩むべきことではない。 「何から何までありがとうございます」 「早く行け。役員に迷惑がかかる」 「はい。失礼します」 何度も頭を下げて、生徒会室を出る。部屋の外でわざわざ待ってくれていた役員の人たちにも礼をして、僕は歩き去った。

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