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自由に向かって4
○ ● ○
大きく息を吐いて自室の椅子に座る。電気をつける気力もない。
一日酷使した脳を休めるように息を吐く。これがもはや恒例行事のようになってしまっている。
だがそれも仕方ない。五年のブランクの後に昔以上の忙しい生活に戻るなんて体が悲鳴をあげるに決まっている。
通常通り高校の勉強や他にも会社経営や思想の勉強や、人の上に立つなら身につけておくべきことの稽古もある。
しかも自室以外では全て監視されているようなものだから休まる時はない。
ただ今日から三日間、父はいない。食事中に父の顔色を伺う必要もなくなるということだ。それだけで十分負担は減る。
「ん……?」
背もたれに体重を預け、目を瞑っていると、物音が窓の外から聞こえる。
窓を意識するなどかなり久しぶりだ。
朝起きる時はまだ暗いからカーテンは開けないし、帰ってくる時も暗い。おそらくメイドが朝のベッドメイキングの際に開け、夕方の掃除の際に閉めているのだろう。
鳥か、猫か。何かいるのだろうか。
たまには外の空気を感じようと窓に向かおうとしたところ、
「わっ……」
ガタガタ音が鳴って、窓から、
天使が、
落ちてくる。
「……あ、き……?」
初めての日を思い出して、すぐに亜樹を連想する。
カーテンを割って入ってきたのは、確かに、愛しい人で。
ふわっと風が入り込んで、カーテンを揺らす。
あの日と違って月の光を受けるのは、亜樹。神秘的な光を受け、亜樹が顔を上げる。
目がーー合う。
今の俺には『大丈夫?』と声をかけることはできない。でも吸い寄せられるように見つめてしまう。
すると亜樹の綺麗な瞳から涙が零れ始めた。
ぽろぽろ、ぽろぽろ、大量の雫が床や亜樹の手の甲に落ちていく。
亜樹が手の感触に気づき指で涙を辿る。それで自分が涙を流していること、そして俺に会えたことを実感したのか、くしゃっと可愛い顔が歪む。
「そう、た……」
気づけば俺は、抱きつかれていた。
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